是枝監督の描く当たり前の日常の何気ない一コマ。究極のリアリズム。それを余すことなく映像に落とし込む。見ていて本当に居心地が良いという不思議な感覚。だから自然と笑みがこぼれて、爆笑ではないけれど思わずクスッと笑えてくる。確かに『歩いても歩いても』で表現した世界観やら設定やらとやや似ているのだが、そういうワンシーン毎の素晴らしさを見ると本作の方が好み。 しかし本作はメッセージがストレート過ぎるのがやや難点。なりたい大人になれなかった大人、がテーマであり、今だになりたい大人になろうと努力するもなりきれない。阿部寛のダメさ加減はクズとも言えないけれど、どこにでもいるであろう大人でセコいよな、とは思わずにはいられない。そんな男の細やかながらの変化を描いているわけだが、もっと婉曲的で考えさせる感じならよかったな、とも思う。

ただどのキャラも憎めずに活かされてるのは是枝監督の力量だと思うし、演者の力量だと思う。樹木希林なんかは相変わらず抜群に面白い。池松くんだったりリリーフランキーや真木よう子なんかもよかった。 結局人生について語った作品であり、人生なんてのは深いようで実は樹木希林の言うように「単純なもの」なのかもしれない。

ある壊れた家族の形、嵐（台風）が訪れ、それが過ぎ去った後の爽やかさ、清々しさたるや、じんわり心が晴れた気がする。