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[コメント] わたしは、ダニエル・ブレイク(2016/英=仏=ベルギー)

ケン・ローチは社会風刺的な作品が多いのだろうが、自分には人として大切なことに気づかせてくれた。
deenity

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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タイトル通り主人公はダニエル。少しクセがありそうな人物に見える。でも実際作品を見ていくと不条理な扱いを受けている自分以外にも困っている家族がいたら声をかける。隣人の若い子ともいい関係を築いている。職場の人との関係も悪くはない。ケイティとの関係が中心で描かれているが、実際それだけではないところで人柄の良さか表れている。

しかし、そんなダニエルは心臓発作を起こして働けなくなった。正確には働きたいし働けるはずなのに国がそれを認めない。そして、それにも関わらず支援制度を認めない。役所も保険関係も、それぞれがそれぞれのマニュアルに従って動いていて、実際規則通りだとダニエルは弾かれるのだろう。しかし、対人の視点でダニエルという人間を見た時に、なぜそこまで不当な扱いを受けなければいけないのかと思わざるを得ず、マニュアル的な対応しかしない職員には憤りを感じるのだ。

たぶんこの作品のテーマとしてはそういう社会風刺に対する視点が主になっていると思う。ただ、社会の仕組みも制度もわからない私にとっては反社会的作品というよりももっと人として大切なものを見つめ直させる作品のように感じられた。

つまり、ダニエルという人間そのものがテーマなのだ。人と人との関わりというのは損得感情のない所にこそ築かれるはずなものだと自分は思っているので、ラストシーンで駆けつけてくれた、少人数ではあっても、確かにダニエルのために最後を見届けに来てくれた人がいることが何よりも大切なことで、同時に、役所の人達には一体どんな人が駆けつけてくれるのだろうと思う。

壁の落書き。あれをやってしまえば問題になるだろう。警察にも捕まるだろう。しかし、あの「I,Daniel Blake」という端的な言葉には、「私は手当を求める一市民で、役所からしたら煙たがられる客の一人かもしれない。しかし、私はダニエル・ブレイクという一人の人間なんだ。」という心の叫びが込められているのだと感じられて、グサッと心に突き刺さった。

たぶん自分の解釈は主題とはズレているかもしれない。それでも、自分にとってはそういった人として大切なことに気づかせてくれた作品だった。 役所の職員は壁に「I,Daniel Blake」と落書きした男が心臓発作で亡くなったと聞いた時、「ほら、やっぱり働けなかった」と思うのだろうか。「厄介者がいなくなって清々する」くらいに思うのだろうか。

(評価:★4)

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