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[コメント] ドリーム(2016/米)

映画的演出もさることながら、事実を元に普遍的なテーマを題材としていて文句なしに今年度一番の作品だと思います。
deenity

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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初めて「地球は青かった」って言ったのはガガーリンだとかアメリカの月面着陸だとか、一般常識的な知識は一般人なら誰でもあって、それをニュースやら噂やらで聞くのはやはり表面的な話で。何が言いたいかって結局ガガーリンが凄いとかアポロ計画が凄いとか、いつも脚光を浴びるのはそういうとこばかり。だけどその裏のどれだけ活躍した人達の存在があったかってことは薄れがちだ。 決して歴史の教科書にはならない。当時の人々が亡くなれば語られもしないかもしれない。でも偉大な出来事の背景には忘れてはならない、知っておかねばならない、人々の努力があったこと。 本作のテーマが「人種差別・女性差別」であることは間違いない。だけど事実に基づいた話で、誇張したり編集されている部分があったとしても映画として世に広まり、語られ続けることが大切であり、まずその点を素晴らしいと言いたい。

時代は1960年代アメリカ。当たり前のように差別があったことを思い知らされる。冒頭で天才的な知能を持つキャサリンが教員からチョークを受け取り、実力を遺憾なく発揮するシーン。後のシーンとの対比も見事だが、素晴らしい知能を持っていることと同時に、これから先がそう簡単にはうまくいかないことを仄めかす車のシーンも面白い。白人と黒人、男性と女性の関係性を一瞬で表現するのは見事。

また、この作品で描かれる女性はキャサリンだけじゃない。エンジニアを志すメアリーやリーダーのドロシー。この三者の活躍が感動的なのだが、それまでの不当に虐げられるシーンがあるからこそ、後半に生きてくるのも事実。 NASAで活躍するなんて凄い、と思った。警官ですらそう言っていた。それでも実際は黒人だけで部屋が分けられ、立場も違い、言葉尻にほとんどの会話でチクチク棘があるのがわかる。 メアリーは女性だからエンジニアの道が閉ざされ、そのエンジニアのための資格も白人のみの大学を出る必要がある。 ドロシーは黒人女性たちをまとめるリーダーで管理職への昇進を望むが、一向に聞く耳を持ってくれる気配はない。 キャサリンは数学の能力を買われて部署を移されるが、そこでは白人男性しかいない。

圧倒的差別。でも問題は、その差別を当たり前のことと白人は思い、黒人もそれを認めていること。意図的な差別ならまだしも、無自覚に差別を行なってしまう感覚はそこまで生きてきた環境がそうさせるのだ。 だからこの作品のテーマとするところは根深い。今の私たちが差別がいけないことくらい当然わかっている。でも無意識のうちに差別をしてしまっている事実を変えるには根本の部分から見つめ直す必要がある。 差別がなぜいけないか。人を傷つけるから?存在価値の差?いろいろある。いけないものはいけないが、一概には言えない。しかし本作はスマートだ。 非合理的だから必要ない。人類の進歩を妨げるから必要ない。 アメリカはこの当時の冷戦下でソ連に一歩先を越されていた。ケビン・コスナー演じるハリソンも「熱意や能力で負けているはずがない。努力が足りないから負けたのだ。」と言った。でもそのハリソン自体がとった行動がまさに合理的で大きな価値のある行動なのだ。

キャサリンが感情を露わにするシーン。トイレまで800メートル走らなければいけない。服装の規定があるのに真珠のネックレスなんて買えない。非白人用コーヒーポットには手も触れない。タラジ・P・ヘンソンの演技も素晴らしいのだが、同時に、それに気づかされた同僚達の表情にもはっとさせられた。 当たり前のように差別がまかり通る社会。その中の小さな一歩かもしれない。だけどハリソンの「NASAでは小便の色は同じだ!」には震えた。 誰もが当たり前に平等に活躍する社会。人類の進歩には差別など合理的に間違っている。差別はなぜいけないか?それも一つのアンサーだ。

メアリーは「前例になること」の必要性を訴えた。ドロシーはキルスティン・ダンスト演じる上司に「偏見を持ってないつもりでいることをわかっている」と呟いた。 本作のスポットを浴びているのはキャサリンが一番主役なのかもしれないが、この二人の活躍も十分に感動的だ。そうやっていつか当たり前に差別がなくなる日が来ればいい。差別はなぜいけないか?なんてどうでもいい。差別って何?くらいに言える時代が来るといい。彼女たちの行動は、この時代に活躍したこと以上に差別撤廃の大きな一歩のはずだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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