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[コメント] 羊の木(2018/日)

吉田大八監督は演出において丁寧に描いてくれるからそこを楽しむまではいいんだが。
deenity

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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魚深市という町に越してきた6人の殺人犯。10年間この町で暮らし貢献することを条件にした仮釈放のようなプロジェクトの一つだそうで、冒頭から6人が各々6通りの不穏さを醸し出しながら町に移り住んでくる。 それを出迎えに行くのが月末こと錦戸亮。「魚深はいい町ですよ。人は良いし、魚は美味いし。」という言葉を何度も何度も繰り返す単調さが彼の人としての薄っぺらさと、同じシーンを比較することでそれぞれの個性を引き立たせるという点で、見事な導入だと感じた。

松田龍平北村一輝優香市川実日子水澤紳吾田中泯。この6人の殺人犯。それぞれがどういう経緯で刑務所に入れられたのか、という疑問を抱かせながら、少しずつ見えてくる人となり。 結構それぞれがしっかりとキャラが立つように描き分けられていてよかった。良い人、明らかにヤバい人だとわかる人、人との関わりを避ける人、寡黙な人、本当に人を殺したのかと思える人等、それぞれ演技派が演じ分けるだけあって見事に惹きつけられる。

それに加えて上手かったのは作品通しての不安感を煽る演出。作中にも描かれるタイトル通りの「羊の木」は罪のない子羊を表すものと枯れてしまうような本当の悪人とを表す表現だろう。 ただ誰もが闇を抱え、悪人としての一線を踏み越えてもおかしくないよう思わせる。例えば魚の頭を取る時に包丁でザクッと切り落としたり、髭を剃るだけのはずなのに震えが殺害した時を彷彿とさせたり、一種の危うさを感じさせるシーンが繰り返されることでの緊張の持続が本作の良さでもある。

そしてある人物の公園で、はたまた自宅で映されるシーンの表情が暗くて読み取れないほどの闇。その人物への先入観すらも揺らがせることが監督の意図でもあると思うのでやはり上手いは上手いのだ。

ただ伝わってくるメッセージとしてはわかりづらいように感じてしまう。先入観だとか正義感とか尊厳だとかの大切さ、がテーマだとは思うのだが、せっかく上手く6人の人物を描き分けていたのだからもっと上手く使ってほしかった。惜しい。 音楽も巧みだった。序盤静かながら謎めいた空気感を助長させる感じのBGMだったのが、終盤にかけて一変してテンポアップ&激しさを増していく。上手い。上手いからこそ惜しい。

とりあえず本作での役者の演技は素晴らしい人が多かった。主演の錦戸くんの絶妙ななよなよしさはもちろんのこと、殺人犯役を演じた松田龍平の猟奇的な雰囲気、北村一輝の笑顔に潜む危なさ、優香の妖艶なオーラなんかは秀逸なものがあったと思う。

(評価:★3)

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