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[コメント] 15時17分、パリ行き(2018/米)

究極のリアリズムを追求していく姿勢。他の人と何ら変わりない人が輝く英雄譚だからこそ共感を得る作品なのかもしれない。
deenity

**ネタバレ注意**
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名匠イーストウッド監督の最新作。と言っても前作『ハドソン川の奇跡』では多くの方が高評価をされている中で、私には合わない感じがあって正直落ち目かと思ってしまっていた部分があった。 ただ本作は自分が勝手に落としといてあれだが、復活の兆しが射した作品だと感じた。いや、復活とかはさすがに80歳を越えた今から全盛期を取り戻すことは難しいだろう。それでも今作の配役を全て実際の人物をキャスティングするという試み。この試みは実に面白いし、イーストウッドの作品を究極に追求していくとここまでのリアリズムに辿り着くのか、ということに感心した。この歳にしてまだそんなチャレンジをするのか、というハングリー精神には本当に頭が下がる。

昨今の作品で描かれる、歴史的に大きく名を残すほどではないがしっかりと英雄を作中で輝かせる展開はイーストウッドらしさだし嫌いじゃない。と言うより嫌いなら例えイーストウッドだとしても見ないだろう。 ただ、例えば『アメリカン・スナイパー』で描かれた英雄なんかは彼自身の葛藤も丁寧に描きながら映画的演出にも優れ、個人的にはこの監督の中のベスト作品だと思った。 一方で『ハドソン川の奇跡』で描かれた英雄も同じように自問自答しながらもヒーローとして最後には輝くわけだが、単調すぎてただのVTRというか「アンビリバボー」を見ている気分だった。 だから表現の仕方によっては一長一短あるようにも感じていて、イーストウッドだからと言って手放しで褒めることはできないと思っているのが現実。

そこからの本作での挑戦を聞くと、リアリズムの追求は良しとしてそれが映画にどれだけプラスに働くのかは懸念した。 しかし、そこに描かれたのはやはり本人たちが実際に経験したことを再現しているからこその究極の再現であり、迫真の演技、いや、そのものを見ている気分にすらさせられるのだ。 もちろん素人なので日常シーンは平凡であるし、旅行記を見せられているところなんかは「今何を見せられているの?」って気にもなった。 ただ、テロ現場に遭遇してからのシーンは迫力があって平凡さなど微塵も感じなかった。突き詰めるとリアリティーはこういう領域にも踏み込むのかもしれないとも思った。

その中で作品の軸にあったのが、彼らの口から何度か話題にあがる「運命の力」。逆らえない何かしらの導きによって人生が構成されていく。まさにその通りで、パリへの経路がもし何か一つでもズレていたら、あの時勧められないからやめていたら、あの時車両を移らなかったら、あの時寝坊したり試験に落ちていなかったら、このテロはきっと阻止できなかった。 全てが偶然のようだがこの事件を止めて英雄になるのは必然の運命だったのだ。

そんな英雄となる人も少年期は煙たがられた存在。そんな彼らが町でパレードを開かれるほどの人物に変わっていくための序盤。英雄はどこにでもいる。ひょっとしたら今気にくわない人の中にも。 基本的に無駄がなく、丁寧に作られているので見ていて損はない作品だった。

(評価:★4)

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