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[コメント] 万引き家族(2018/日)

カンヌで評価を受けたからとかではなく、自分が是枝監督に求めていたのはこういう作品で、だからこそそういう作品が評価されたのはとても嬉しい。
deenity

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カンヌ映画祭でパルムドール受賞、本当におめでとうございます。これですよ、これ。是枝監督に求めていた作品は。つい先日、遅ればせながら『海街Diary』を見たばかりですが、今までいろんな家族の形を描いてきていて、やっぱり一つの家族のリアルな様を描くのが見事なんですよね。自然な演技というよりは、リアルそのものとでも言うべき生々しさ。最初はクスッと笑ってしまうような会話劇も、いつしか微笑むくらいに変わっている自分がいる。これは悪い意味じゃなく、家での何気ない流してしまうような会話って注目しないから笑いって少なくなると思うのだが、まさにそんな感じ。最初はそういう言葉一つにまでアンテナを張って読み取ろうとしてたんだけど、知らぬ間にその家族と同じような時を過ごしてきたかのような気になり、後になって「あの言葉の意味がここにかかってくるのか」っていう発見は何度かあった。塩とかワークシェアとかは普通に笑えたけど。とにかく恐るべき吸引力。これぞ是枝監督のリアリズムだと思う。

手際よく万引きをこなしていく一家。本当の家族とばかり思っていた。でも違った。進むにつれて明らかになっていく事実。みんな求めて家族の形に収まっていたこと。

途中安藤サクラが言うように「自分で選んだ絆の方が強い」のかもしれない。この家族は万引きという犯罪を犯し、一応両親は働き祖母は年金をもらっているけれど生活に困窮していたり、そんな裕福な家庭にはとても見えない一家がどう目に映るだろう。 昨今減少傾向にある核家族の家庭を描き、血は繋がっていなくても家族団欒で食事をしたり一緒に海に行ったり、例え見えなくとも一つ屋根の下で花火を見上げたり、これがどう映るだろう。

繋がりって何だろう。血か?松岡茉優が聞く。「二人は何で繋がってるの?」性欲でもない。心だとリリーは言う。くんは父のように思いつつも心では認められなかった。店に並んでるものはまだ誰のものでもない。これは納得できた。でも人の物を取ることは納得いかなかった。「忌中」は読めない。何て読んだのか。どう思ったのか。心の中で何を思ったのか。心で繋がっていたのか。

前半部ではあたかも血で繋がる家族を否定するかのように、ところが一転、後半部では本当の家族の形を問われる。 どんどん綻びが見えてきて、それぞれの意図がわからなくて、知りたい時にみんなバラバラで。じゃあ血が正しいのかと言われたらやっぱり首を横に振らざるを得ない。 それなのに世間はみな、あの二人の警官の立場だ。自分たちの価値観で、自分たちの常識で物を言う。結局事件が落ち着きさえすれば、自分とは何も関係ないのだから。 当事者たちはどうだろう。引き裂かれたら幸せか。一緒にいればよかったのか。家族って何?

(評価:★5)

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