[コメント] マリッジ・ストーリー(2019/米)
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ゴールデングローブ賞ノミネート作品。アダム・ドライバーにスカヨハとはまた豪華な布陣。Netflix作品で評判も高く、タイトルからして恋愛物を匂わせ、一体どんな良質やラブストーリーなんだろうかと期待した。
違った。冒頭10分、互いの長所を語り合い、そこから見える人間像もうかがえて、もうすでに幸せいっぱいなのだと思わされつつそれを一変させる展開。離婚調停物かい。構えてなかったよ。バリバリ重いストーリー運びだった。
ただ、期待を裏切らなかったのは作品の質。Netflix作品は『ローマ』で名実共に認められてきているけども、本作もゴールデングローブ賞にノミネートされてることもあり、噂に違わぬ良作だった。
まずもって冒頭から見事で、その長所のくだりだけを見せられたら一見ハッピーなラブストーリーを誰もが想像する。しかし、実際はそこからストンと落とされて、そんな二人がどうして離婚に至ったのか。復縁はありえないのか。そういった思いにさせられる。 実際に結婚している人はいくらでもいるけど、これほどまでに互いの長所を言い合える人ってどれくらいいるのだろう。あるいは長所はわかっているのだけれど、それが当たり前になりすぎて見えなくなっているだけか。 どちらにせよ、この夫婦は互いのことをよく理解しているし、離婚自体に関しても話し合いで解決したいと考えていて、どちらかといえば好感が持てる夫婦であるように感じた。
ただ、弁護士が介入してから事態はこじれ出す。本人たちの意思を飛び越え、どうしてこうも一人歩きした結論に向かおうとするのか。行動の意図などを深読みをさせ、故意によるのか策略なのかもわからない。緻密な脚本によるストーリー展開が実に見事で、ズレた歯車が回り続け、それが一層冷ややかな空気感を漂わせていた。
本当はもっと最初から二人で話し合っておけばよかったのだ。互いのことをしっかりと理解しているのだから。余計にこじれる前に。 でもダメだった。絡まった糸を解こうとしたらより一層結び目を絡めてしまうかのように、思ってもない暴言までぶつけてしまう。 きっと互いを理解していて、理解し過ぎていたからこそ現状の修復の施しようがないことも理解していて、愛し合っているから裏切られたのが許せなかったり、愛し合ってきたからそこが疎かになってしまったり、そういうどうにもならない不満な思いを全てぶつけてしまったのだと思う。二人の怪演は、本当に長年連れ添った夫婦のそれを見事に表現しており、あのリアルな口論は恐ろしいほど生々しかった。
ただ、どうにもならないことを確信しても尚優しくあれたのは、やはり愛だ。だからあの手紙をあそこに持ってくるのはズルい。結末としてハッピーとは言えないかもしれないが、この感じは『スリー・ビルボード』を見た時と似た感じだ。あとはもろに『クレイマー、クレイマー』は重なるものがある。どちらにせよ、じんわり心が温かい気持ちで終われたことに満足感でいっぱいだ。
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