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[コメント] 白ゆき姫殺人事件(2014/日)

面白かった!現代版『羅生門』というよりは、今の日本における「吊るし上げ」についての映画だと思った。
味噌漬の味

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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こういう羅生門式の話はとくに目新しいものではないが、この映画は「複数の人物みんなが一人の人物に関して少しずつ焦点をずらした証言をすることで、全く別の人物が作り上げられる」ことに主眼を置いている点が面白い。そしてそこに覆いかぶさるように、Twitterという誰もが匿名で、自分の言葉に全く責任を持たずに発言することができるSNSが加わり、「美人OL殺しの犯人、城野美姫」という物語が一層加速度を付けて形成されていく過程を、赤星というTwitter中毒のチャラッチャラでペラッペラの男を軸に描いている。『羅生門』式でありながら、しっかりと「現代版」である。

そして痛快なのが、「匿名の一般人」の恐ろしさを、悪意すら感じる描き方であぶり出している点。Twitter上で、あたかも事件の当事者かのように「犯人死ね」などと容疑者叩きをする光景には実際に見覚えがある。そしてそれが事実でなかったとわかったときも、その報道をしたマスコミに対して「謝罪しろよ」というような、「自分は事件と全く関係がない」という立場からの発言(ツイート)をする。そりゃまぁそうだろう、本当に事件とは関係がないんだから。これも実際によく見かける。しかし、本当に事件とは関係がないのに、なぜ当事者であるかのような発言ができたのか。これはTwitterなどの匿名性の高いSNSでは特にそうだけど、しかしそれに限ったことではないと思う。要するに、「吊るし上げ」だと思うが、今の日本は(って海外に住んだことないから比較できないけど)、「吊るし上げ」が好きすぎる、ということを私は思う。何か「批判されてしかるべき(と思われる)人物や組織」を見つけるや否や、飛びつくような勢いで匿名の「正義の」人達が群がり、まるで実際に被害に遭ったかのように、自分たちは少しも間違っていない、というような顔をしてその対象を潰しにかかる。これを大滝詠一氏は「魑魅魍魎が群がってくる」と表現していたが、まさにその通りだと思う。だからこそラストで赤星は、自分があれほど調べ上げようとしていた城野本人と今まさに対面していることに気付かなかったのだ。つまりその程度ということだ。その程度の関係、というか、テロップの通り本来「無関係」なのだ。「知らない人」なのだ。組み立てたストーリーにはめこむようにその「知らない人」を「知っている人」と同程度に知っているかのように作り上げていただけなのだから、気付かなくて当然なのだ。

東日本大震災後の日本も結局そうした「吊るし上げ」の連続でここまで来ているような気がしてならない。当事者でないのに、当事者のような顔をして誰かを吊るし上げることで安心しているのだろうか。私には、この映画がそこまでのことを伝えているように思えた。そこが『羅生門』とは違うところで、実に痛快である。

ただ、結局は城野本人の独白によって事件の事実と詳細が明らかになる、という構造は残念。本来であれば、それも本当かどうかわからないはずではないのか。そこに対する疑念を映画自身が持っていないのが残念。

(評価:★4)

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