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[コメント] 夜の蝶(1957/日)

ブラックユーモアに微妙に振れる演出意図を両名優が的確に把握しているのが心地よく伝わってくる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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物語は軽薄な花柳劇で、下手な演出と俳優で辛気臭く撮ったら最悪だっただろう。

京マチ子山本富士子が自家薬籠中の役処をいつもよりハイテンションで演じてもの凄い。この二人の抑揚の組合せがとてもいいのだ。ローキーからはじめてハイに至る京マチ子と、逆にハイからはじめてローに至る山本富士子。ふたりともワンカットだけ、正義を受け持つ呼吸もいい。京マチ子は山村聰を裏切った小沢栄太郎にカクテルをぶっ掛け、山本富士子は芥川比呂志の裏切りを黙って許すのだった(このときキャメラが窓の外に退くのがひどく印象的)。

船越英二が途中で引っ込んで替わりに芥川比呂志が途中参入する辺り、どうも流麗さに欠けて呼吸が合わないのだが、兎の血を抜くというブラックな描写で芥川を割り込ませて面目を保っている。

放射線が毎日降ってくる世の中だから、医者にならず基礎研究を続けると語る芥川。ナルセの『女の座』(62)でも気象庁勤めの夏木陽介が同様のことを喋っていた。当時広く共有された認識だったのだろうか(第五福竜丸事件は54年)。酔っ払い運転OKも時代。バーを「バア」と書いている(京マチ子の開店祝いの花)のが発見。

ベストショットは当然、深夜のカーチェイス。何で山本の車は京に追いつくのか説明が省かれてナンセンス喜劇風になるのが素晴らしく、信号機に阻まれてバックさせたあと一瞬眠り込む山本が最高である。嗚呼をんなの執念よ。

(評価:★4)

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