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[コメント] 神阪四郎の犯罪(1956/日)

三流の裁判劇を闇雲に盛り上げる久松の箆棒な手腕。女優4人の演技合戦から女の怖さが滲み出る。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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蜘蛛巣城』の山田五十鈴の狂気すら想起させる三つ編みの左幸子が強烈(25〜26歳です、町田さん)だが、いつものしおらしい婦徳がパロディにされる新珠三千代、成り上がり上流婦人の厭らしさが箱根の宿屋で炸裂する轟由起子、森繁に片手で胸摑まれつつ意地悪気な微笑みが忘れ難い高田敏江もまたもの凄い。一般に社会的弱者である女の意外な悪だくみという主題は昔から推理小説の好む処だが、本作はこのジャンルの美味しい処が詰め込まれている。

変幻自在の森繁久彌はこのクァルテットの写し鏡。彼の滑稽はそのまま4女優の滑稽を浮き彫りにする。本作は『羅生門』のような不可知論にいる訳ではない。釈放されないラストは女たちの勝利を語っている。

裁判劇としては三流。弁護士が殆ど喋らず被告が長広舌を開陳するおかしさは、まあそれが必要なドラマだから我慢して曲げてもいいが、物証を得ようとしない警察・検察とは端的は間違い、どこぞの国の恐怖裁判じゃあるまいし。左が売却しようとし、森繁が虚偽通帳の穴埋めに利用しようとした宝石が本物か偽物か、これを市中宝石店を虱潰しに捜査して確証を得てから裁判に臨むのが当たり前で、そうすれば嘘をついていたのは森繁か左か自ずと明らかになるだけの話だ。そこを頬かむりして「真実は判らないものだ」などという主題を納得させようというのは無茶苦茶である。

詰まらん原作を真摯に撮って佳作に仕立てた久松は監督の鑑だと思う。左の飼っている猫の演技は絶妙、裁判中愚図る森繁の息子を裁判職員が廊下であやす件なども、久松らしい優しさのあるカットで実にいい。

なお、このテーマを扱った小説では大岡昇平の「事件」が忘れ難い。映画になっているんですね。観てみたいなあ。

(評価:★4)

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