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[コメント] 実録 私設銀座警察(1973/日)

浅間山荘の年に撮られた極右の終焉。一体、元特攻隊の組織からクレームはなかったのだろうか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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「私設警察」とはつまり外国人排斥組織な訳だ。在日コリアンへのゲバルトに始まり在日中国人(内田朝雄)への強請りに至る。興味深いのはこの視点だ(毎度の内ゲバ抗争の件はややダレる)。元特攻隊員らが上げる「天皇陛下万歳」の勝鬨は虚無感満点、組織の生き残りなど一顧だにせず花と散る無謀さは右翼体質の本質を穿っており、先行するヤクザ映画の組織論への批評にもなっている。やけっぱちの宴会もすごいが直前の崩壊する結婚式もすごい。成り上がりを禁じる独特のストイックな倫理観に純粋右翼の禍々しさが刺すように臭ってくる。

渡瀬恒彦の反米で始まる本作、本編ではアメリカの背中は見えなくなってしまう。ずっと黙していた渡瀬が云いたかったのは、敵は中国ではなくアメリカだ、であったはずだ。しかし、アメリカは町中で尻尾を掴めるような場所にはいなかったという鬼畜米英思想の不毛。別に何も共感はしないが、その立場なら無念だろうという生々しさは伝わってきた。本作が73年に撮られているのは意味深だろう。極左が浅間山荘で崩壊した同じ年に、これに煽られるように極右の終わりがここで回顧されていた。街場に沈殿していた当時の反米の空気は右からも左からもここで終わったのだろう。実録された亡霊たちは、外国資本に占拠された今の銀座をどう眺めるのだろう、と思うと、怨念を感じて震え上がらされてしまう。繰り返せば、これは元特攻隊員たちの実録なのだ。安らかに眠ってほしい。

深作踏襲の仲沢キャメラは乱暴さの迫力には欠けるが滑らかに纏めてさすがのハイレベル。美術は敗戦直後の殺伐を再現して素晴らしい。東映スタッフの傑作だ。どれがロケかオープンセットか判別はつかないが、73年にはまだ46年を再現できる町並みがあったのを記録している。あの時代だから撮れた秀作なのだろう。

(評価:★4)

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