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[コメント] おんなの細道 濡れた海峡(1980/日)

全てが出鱈目で惨めで侘しくて、それなのにとても充実している。名作「ポロポロ」の解説付。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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三上寛田中小実昌の分身なのだろう。私は若かりし頃の寅さんと勝手に解して愉しんだ(コミさんは啖呵売を生業にした時分もあったらしい)。『男はつらいよ』シリーズは本作の「過ち」の「反省の日々」だとすると、面白いほど平仄が合う。寅も若い頃は喋りが下手だったんだなあ、とか。『寅次郎の告白』の吉田日出子など桐谷夏子の後日談のよう。ノンメイクの桐谷の中年女の消え入りそうな存在感に凄いものがある。

コミさん(馴れ馴れしい)の谷崎賞受賞作「ポロポロ」(77年)は当時とても話題になった小説で、独立教会を建てた父と信者が祭壇に向かって毎日ポロポロとだけ唱えている、と云う少年時代の記憶を語り手があれは何だったのかと反芻する話。このポロポロ、異言だとか宗教の原型だとか色んな解釈がなされたもので、あの短編だけに限定すれば正しい読みだと思うのだが、コミさんはここで(原作は「島子とオレ」「オホーツク妻」。探さねば)何とネタばらしをしている。「パウロパウロのことさ。パウロ様に誓って姦淫はおかしません、てな具合に祈るんだ。でもとてもパウロ様には誓えないな。ポロポロだ」「ポロポロって寂しいね。ボロボロより寂しいね」。喰っているうどんも寂しいし三上のアソコも寂しいし、と桐谷と笑い合うのだった。

三上も寅さんのように反省ばかりしている。この直後の石橋蓮司(このヤサグレた芝居の素晴らしさ)との尿瓶の件、桐谷と並んで野糞する件、小川恵との顚末、その他、雪道に滑って転ぶ冒頭と同じ収束に挟まれた全ての出来事が、出鱈目で惨めで侘しくて、それなのにとても充実している。きっと三上が立ち止まらず前向きに移動し続けるからだろう。前田米造のキャメラはこういう世界にとても相性が良い。クスんだ空の美しさよ。70年代後半は彼の時代だったと再認識。

(評価:★4)

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