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[コメント] 紐育の波止場(1928/米)

ドストエフスキー流の破廉恥騒ぎの豪胆かつ繊細な描写に黒澤が想起される。三船はジョージ・バンクロフトの影響大、しかしベティー・カンプソンの蓮っ葉な魅力は引き継ぐことはできなかった。
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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霧にむせぶ埠頭、メイの投身を揺らぐ水面に写して捉える幽玄なショットがまず素晴らしい。こればっかり撮ったら表現主義映画になるところで、それはそれで面白いのだろうが、スタンバーグは物語に主眼を置いており、的確な箇所に挿入することにより全体のモチーフを定着させることに成功している。

「考えるの厭になっちゃった」とメイは云う。そりゃそうだろう、今さっき入水自殺未遂をしたばかりで結婚しようとするのだから。この、外界との繋がりを流れるに任せたところでこの酒場の騒ぎが続くのだが、この精神状態はとんでもなく過酷な労働条件のビルにも伝播しており、だからこその「結婚」でもあるだろう。そしてラストの深夜裁判(いい加減な裁判もあったものだが)における投げやりと云えば余りにも投げやりな決着のつけ方に至る。重要なのはここに至るまでの全体のトーンを霧と水面のショットが規定していることで、観る者もまた茫洋とした夢のなかにいるような心境で、ビルの粗野な豪胆さを賞賛することになる。もっと理性的な解決方法はあったはずだが、もうどうでもいいのである。

酒場の動的な構図の連発も素晴らしい。サイレント全般に云えることだが、当時のフィルムの感度のお蔭でパンフォーカスでもないのに全体にピンが合っており、ピン送りに神経質な現代よりも上等に観える。火夫長の元妻がこの滑稽な結婚に泣き出すところもいい。このショットひとつで、翌朝の展開を我々に納得させてくれる。唯一まともな聖書売りの批評も効いている。ガス灯を背にふたりが語らう件も美しい。結婚の誓いをぎこちなく語り合うふたりに降りてきた親和力の鮮やかさ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)赤い戦車

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