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[コメント] 日本海大海戦(1969/日)

戦記物なのにお茶漬けの味、それも永谷園ですらなく柴漬け三切れ程度の味しかしない。サクサク進むこだわりのない作劇、乃木希典に笠智衆などという薄味キャスト、『コント55号人類の大弱点』なる併映作、どこを見てもそれが意図的なのは明らかだ。人類の大弱点!
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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丸山誠治は『キスカ』の演出はずいぶんネットリしたものだったのに。この転換は当然、制作部の指示だろう。「東宝8・15シリーズ』の第3作がなぜが日露になったという経過らしいので、通史の意図があるのだろう。旅順港閉塞作戦、加山雄三の広瀬武夫の「杉野はいずや」など、あっと云う間に終わってしまう。常陸丸沈没で藤田進の上村彦之の家に投石、相変わらず戦中のシンボル藤田は皮肉な役処。

冒頭述べられる現状分析。義和団の乱は「暴動」であり、「天津から北京へ暴れ込む」、8ケ国は「北京を救うために」出兵して義和団を「討伐した」。各国は引き揚げたがロシア軍だけは「満州」から引き揚げず増強、「もし満州、そして朝鮮が占領されたら、わが国の独立は脅かされる」。義和団は先進国の帝国主義に対する愛国運動であるという視点は否定され、植民地がなければ日本は滅ぶという史観が示されている。三國連太郎の東郷平八郎は佐々木秀丸の枢密院顧問に云う。「連合艦隊が負けるなどと考えたことはありません。負けるときは日本がなくなる時です。そんなことが考えられますか」。似非三段論法の詭弁である。こんな冒険主義(!)で国を切り盛りされたのだ。映画はこれに嫌味を云うのかも知れないと裏目読みしたくなるような見解である。

笠智衆の乃木が「私は普通の人間ではない」「たくさんの人間を殺した」と云い、三船の東郷平八郎が「みんな喜んで国のために死んでくれます」と応えるさ。本作で活躍するのは上官ばかりで、下っ端の兵隊は殆ど取り上げられない。三枚目が小ネタを放つ、みたいなことはまるでない。203高地はなかなかの数のエキストラが富士山麓に腹ばいになって「戦友」など流れるが、実にお茶漬けの味(ただし、バルチック艦隊を率先した探索した松山省二ら宮古島の漁夫たちは描かれる)。

もうこの頃は東宝でも天皇を正面から撮っている。松本幸四郎の明治天皇は写真そっくり。仲代達矢の間諜、通じているロシア過激党のシュリアクス、レーニンがロシア帝国主義の没落を早めるから、この戦争は進歩的と云った、銃五万丁と引き換えにバルチック艦隊の情報、なんて断片は面白く、類作では観たことがないので、この辺りが八住らしいのかも知れない。

田舎では兵隊の缶詰にするために牛を取られたと愚痴る本間文子の盲目の菓子屋の婆さんが、「東郷さんはまたおおいくさをするそうだねえ。また息子のように死ぬ水兵さんがたくさんできますねえ」と云うなか、東郷はその水兵さんの仏壇に参り、いまのは誰かと問われた妻の草笛光子は、知らない人だが「お婆さんに何か云いたかったらしいが胸が詰まっていえなかったようだ」と伝える。三船は胸が詰まったような表情を浮かべる。これも史実なのだろう。

バルチック艦隊がいつ来るどこ通る、というサスペンスは判り切っているからサスペンスにならず、すでに知っている観客に知的優位感を与えるぐらいのことでバカらしいし、全艦出動でパチンコマーチもバカらしい。昔の艦船の再現はプラモデル程度でバカらしい。このクライマックスは退屈。島根県で流れ着いたロシア兵を弔う件があり、入院したロシアの司令長官に東郷が面会に行ってエールを交換しているのは類作にも見られる。日露戦争は国際条約の守られた戦争だったと強調するのだろう。最後は神社を参拝する東郷を適当に讃えて終わる。

(評価:★2)

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