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[コメント] 桃中軒雲右衛門(1936/日)

ナルセの珍しい極右的題材だが生煮えで、芸のためなら女房も泣かす春団治系噺に過ぎない。月形の悲憤慷慨な造形は鮮やかだが、なぜ彼はそうするのか肝心の処が語れていない。
寒山

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なぜ女房を泣かすほど芸を大事にしたか、その芸の「魂」は何なのかが語れていない。月形の披露する浪花節にその思いが込められている、ということなのだろうか。しかしそれも大したものではないように聴こえる。

政治家としても一流、大隈卿にも評価されている等の科白や、息子を玄洋社に紹介しようとする件などに、雲右衛門の立ち位置が示されかけるのだが仄めかし程度に終わっている。突っ込みが足りず客観的相関物を欠いているとしか見えない。この教科書にも載っていた右翼的人物にナルセが共感を持っていたとは前後作から考えてあり得ないことだろう。なぜホンまで書いて取り組んだのか。そういう時代の空気があったのだろうと想像するしかない。

東京凱旋を前に途中下車して躊躇する前半が煮え切らない。結局凱旋するのだが何の葛藤だったのか。後半の春団治も、ひ弱な息子に檄を飛ばす辺りも類型的に過ぎる。ベストショットは病床で月形に見舞いもされず鬼の形相の細川ちか子であるが、この夫婦の関係が十全に伝わってきたとはとても云い難い。三味線がなく木魚を叩いたと語られる九州放浪時代の過去を綿密に回想すべきだっただろう。息子の折檻に妻の死が折り重なる収束はドタバタして拙い。本作の美点は始終寂し気に笑っている月形の優れた造形なのだが、その笑いは客観的相関物を欠いている。

(評価:★3)

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