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[コメント] あやに愛しき(1956/日)

写実的で地味で真面目でいい映画。端役まで名優だらけで流しのフランキー堺の唄が嬉しい。
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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普通に振る舞っていた田中絹代が、信欣三が片付け始めた菓子をいきなり奪う件は衝撃がある(ただ、「衝撃的」な音楽の使い方はいま観ると拙い)。「廃人」という言葉への苦しみは差別的な時代背景を思えば生々しい。本作のような取り組みによって広がった理解というものがあるに違いない。信のやっぱり看病に戻ろうという山場は地味だがいいものだった。

当時(戦前の小説だが撮影時点の設定に直してある)の精神病院の描写は記録として優れている。テニスコートまである一方、小部屋に大勢投げ込んでいたりする。「抜かれた骨返してよ」「ああ、云っておくよ」という患者と医者の会話や、絵の具を呑みこむ患者の件、「案外愉しくやっているんですよ」なる菅井一郎の医院長の発言など印象に残る。子役の寝小便ネタで転がして、最後は患者の佐野浅夫が寝小便して布団干しているのを子役が見る、という纏めは、どう解していいのかよく判らなかった。ラストの番の小鳥はどうやって撮ったのだろう、脚を樹に結び付けているのだろうか。

私小説の映画化により生ずる入れ子構造は面白い処があるが、暴露作家としての悩みという切り口は半端。ここは小説で確認すべき処なんだろう。精神病の扱いは後発の『死の棘』と比べさせられるものがあり、お芸術している小栗作は個人的にはどうでもいいんだが、島尾は上林を意識していただろうと思うと興味深い。

映画は民芸映画。名優だらけ状態は驚異的で、北林谷栄は呻くだけだし芦田伸介らは台詞もない。宇野重吉はどこにいたのか判らなかった。山田五十鈴は隣の小母さん演じて完璧、奈良岡萠子の仄暗い造形はここでも絶妙。主演二人も当然のように素晴らしい。タイトルは「あやにかなしき」と読ませている。

(評価:★4)

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