[コメント] どぶ(1954/日)
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収束は決め損ない。長屋衆と一緒に笑っていた(笑わせた)観客を攻めることになり、ちとしんどい。映画館ではよくあることですね。途中までのユーモア映画が終盤シリアスに展開しているのに、いつまでも爆笑して周りの顰蹙を買う客とかいますね。しかし本作はこのシリアスへの展開が上手くいっていないと思う(あんまりにも上手いのも、ウェルメイドで食傷気味になるが)。
宇野重吉が好きだった他、前振りのない展開もいくつかあり、ホンが荒いんじゃないか。ヘビー級の脇役陣によい見せ場が少ないのも寂しい。冒頭の労働争議を置いてきぼりにして競輪通いを詳述するのは監督のスタンスでよく判るが、しかし「どぶ」というタイトルに込めるべきもの(河童沼は川崎のゴミ捨て場だったらしい)、機関車から石炭拾う貧しさは、マレビト乙羽の造形が凄すぎて相対的に霞んでしまっている。
何かと不満はありますが、乙羽信子に1点加点。野原に寝そべる冒頭の天女のような美しさも忘れ難く、ギャップのすごさに唖然とした。特に最初の宴会のバカ騒ぎが素晴らしい。バカ殿みたいな化粧が準拠しているのは明らかにチャップリンで、川崎駅前のクライマックスも殺伐としていい。ここで終われば良かったのに。
一番良かったギャグは、廃業同然の会社にわざわざ出勤するサラリーマン。「あんたまだあの会社に行くの」という妻の台詞が素晴らしい。こんなに貧乏なのに何で出社するななどと云うのだろうと思わせておいて、補償の矢面にひとり立つ亭主を映すというナイスな展開。これなども、河童沼取材の成果なのだろうか。
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