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[コメント] 私の20世紀(1989/独=キューバ=ハンガリー)

断片をばら撒く話法がとても優れており刺戟的。複雑に関連し合う全てのピースは疑問の提示、解読せよと観客を誘惑している(含『心と体と』のネタバレ)。
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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主題の中心には婦人参政権に係る講義があるのだろう。参政権はまあ認められるが結局は女には論理思考がない、ペニスに発情する女には美的感覚が倒錯していると語る教授に色んな反応を見せる同じドレス着た満席の傍聴者。で、本作はどちらの見解も支援していない。

ドロタ・セグダのリリとドーラの双子がふたりしてオレグ・ヤンコフスキーと戯れるに至る物語は、女に論理性など求めていないだろう。リリが革命分子から譲り受けた「相互扶助」とかいう本には、動物同士の戯れが延々記述してある。しかしその先にはあの、ハンターの男のオモロい顔に惹かれて捕まってしまう動物園の猿がいる。人間とのふれあいに騙された訳で、愛の戯れは宙吊りにされる。

物語をサンドイッチするエジソンはとても哀し気な表情を浮かべ続ける。彼の発明品であるキネトグラフが物語に挿入される(トルストイの映像が見える)のだが、これでもって脳波実験される犬は逃走を図る。映画すら相対化する視点は好ましいもので、そのようにして、発明の論理は動物の触れあいを奪うのだとエジソンは知っていて哀しんでいるように見える。

上記は私の見立てに過ぎず、本作は複数の解釈を許容するだろう。本作で優れているのは断片をばら撒く話法であり、それらは近接しながら互いにやんわりと排斥し合っている。全てのピースは疑問の提示であり、解読せよと観客を誘惑している。三角関係の物語起承転結の承で留まったまま放り出す手際など呆気に取られる。見事な手法だと思う。

ただしモノクロ撮影はいいものだが中の上程度で「『8 1/2』以来最も素晴らしく美しい」(NYタイムズ)などという評価は軽薄。終盤の合わせ鏡は『上海から来た女』を予想させて肩すかし。ただラストの大河を行く船は美しい。マッチ売りの少女ふたりにロバが歩み寄る件は円形の柵の捉え方が古典的に巧みで素晴らしく、犬が丘を走るショットも好きだ。

なお、28年後の『心と体と』(2017)で、動物のような触れ合いという主題が引き続き語られているのが確認できるのは、この監督の真摯さを見る思いがする。

(評価:★5)

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