コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 東京暗黒街・竹の家(1955/米)

異文化コミュニケーションの古典で愉しい観光映画。本作の大論文を書いた友人がその後ネトウヨになったので偏見があったのだが良作。「国辱」なんて厭な言葉使うなよと思う。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







なぜ人は本作を、「国辱」などという厭な言葉を選んで評するのだろう。異文化理解に正解などあり得ず常に漸進を必要とする。本作はむしろ、いかなる先入観があったかを学究する資料とすべき作品だろう。ということで笑った処中心に書く。突飛な笑いが実に豊富だ。

冒頭絶叫する農家のおばあさんは英百合子さん。日本語の上手い俳優と下手な俳優が見事に混在しており、次はどういう奴なのか予想がつかない。ロバート・スタック釈放の際、訴え取り下げの日本人の男が警察窓口で他人無視で喋りまくる件とか、女理容師が聞いていないスタック相手に立て板に水と野球の話喋りまくる件とか、言葉の障壁で奇妙なニュアンスが加わるが単純にハリウッド得意のスラップスティックなのだろう。

最高なのは、浅草のパチンコ屋巡りしていたら次の間にロバート・ライアンが座っていた、という件でシュールな笑いがある。国際劇場の歌舞伎リハはなぜ屋上なのか。鎌倉大仏は『新しき土』でも大活躍だったがここでも登場、ジャポニズムの記号を独米で分捕り合いしている具合である。セットの全ての看板の字は下手糞で別の記号のようで浮遊感があリ、「二第庫倉」などどちらから読んでいいのか判らない。こういうのは日本の出鱈目英語のTシャツと並行関係があるだろう。座敷の宴席で始まるジャズとダンスはポップで素敵だ。その他、風呂屋などは米国人には最高に奇怪に見えるのだろう。ライアンの穴が開いて水が漏れる風呂桶銃殺は傑作美術。

後半のセメント工場や銀行輸送車襲撃、実は警察の潜伏調査だと明かすスタック、よろめくシャーリー・ヤマグチ(大男に囲まれて背が低く見える)ほか特に何ということもない。シャーリーを中庭で真剣に突き飛ばすロバート・ライアンはなぜか真剣に怒っているように見える。李香蘭の来歴ぐらい承知していただろう、という処で私憤が出たように見えてしまった(彼は第二次大戦中に海兵隊で練兵教官を勤めたリベラル)。アメリカ人と住んでいる日本人の女は近所に嫌われるという描写もあった。しかし文化衝突はそのくらい。

冒頭の三度笠かぶった列車強盗群は、ベトナム戦争を不吉に予告するかのように見える(銀座に幻のように三度笠かぶった車夫が再び現れるのを見逃すな)。C12形蒸気機関車ってのが車体小さくでびっくりさせられる。終盤のデパート屋上遊園地で玩具の電車の線路上をライアン逃げるのショットはこの反復(slight return)。確認もしないで撃ちまくる日本警察はまるで日頃の彼等の鬱憤を晴らすかのようで剣呑で、当然始末書を書くのだろう。ラストの地球儀の乗り物は浅草の松屋。

こういうのをきっちり見つけてくるスタッフは優秀、時間もかけているのだろう。記録としてとりわけ興味深いのが船上生活の描写で、日本橋三越南すぐの日本橋川の由。いまは高架下で全く失われた光景。前田陽一『虹をわたって』では内部も詳述されていた(横浜)。ここではシャーリーの素性調査で横断されるだけだが、入り組んだ迷路のような作りが実にインパクトがある。

中盤喧嘩する埠頭に『安来節お秀』なる映画のポスターが貼ってあるが、なんとこの映画は存在する。新興キネマ得意の中篇ものらしく、監督木藤茂、お秀は凸ちゃんではなくて森静子という女優さんで、森光子も出演している由。意外と内容は本作と密着しているのではないだろうか(ないか)。

下記ブログは素晴らしいもので、本作の全てのロケ地を調査していて、とても面白い。このブログ、映画ファンなら半日は潰せます。 https://inagara.octsky.net/tokyo-ankokugai-takeno-ie

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)3819695[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。