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[コメント] 花咲く港(1943/日)

クライマックスの闇雲な盛り上げ方は処女作からすでに木下節。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作はそのクライマックスが太平洋戦争開戦、しかもリアルタイムであるのだから、俄然引き込まれる。あの安吾だって開戦では我を忘れて興奮したのだ。情報局映画だから鼻をつまんで観ねばならないが、それでもあの時代の空気が確かに真空保存されており、突然にこちらも右翼にさせられたような如何わしさ濃厚である。

そのようにして「命より船が大事なんです」みたいな島民の結集は、戦時に船が入用だということで見事に戦時思想に収斂されるのだが(漁船が米軍にやられたという畳みかけはちとやり過ぎ)、その真ん中に詐欺師のふたりがいる、という構図は実に実にブラックである。制作者はどこまで意図的だったのだろう。ラストでしょっ引かれるふたりに陸軍のお偉方をWらせざるを得ない。連中は実際に、水増し帳簿も使っていたのだから。

我々は事後的な目でしか観れないのだが、事後的な目だからこそ全体像が判る、ということがある訳で、渦中にある当事者たちに誰が詐欺師か判ろう訳がない、というのがまたリアルに伝わってくる。ミッドウェーもガダルカナルも終わった後の映画なのだから既に戦艦不足、そこで木造船をつくっているというのも、何かシュールな徒労感がある(ときに、商業船を造っている余裕はあったのだろうか)。

東山千栄子村瀬幸子の築地小劇場同期生対決は実に豪華、舞台もかくやと想わせる緊迫感があった。戦時下なのに長髪で、如何わしい東北弁を使う上原謙の飄々とした造形もいい。一方の森繁みたいな小沢栄太郎はもうひとつ冴えず、悪役への転身は正解だったと思わせられる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] 袋のうさぎ

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