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[コメント] フラガール(2006/日)

今も昔も芸道と借金の関係は変わらないものだという点、伝統的な日本映画。ただ高度成長期の時代錯誤を見せられた感も強い。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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これは意図的だろう、元松竹歌劇団を主人公として、本作は本邦踊子映画の系譜に自らを位置づけようとしている。松雪泰子の造形の背後には伊豆の踊子やミゾグチ・ナルセ映画の芸者や凸ちゃんのカルメンや寅さんのリリーがいるのが感じられる。松雪のこの勝利は、遣る瀬無く負け続けた先達と比べると感慨深いものがある。しかしこの成功はレアケース、私もこんなように頑張ろう、という処へ引っ張る力が弱い。松雪良かったね、とは思うのだが、努力は報われるというよりも運が良かったという感想が先に立ってしまう。

だって、このスパリゾートの成功は現実としてレアケースなのだから。内需拡大・地域おこしが叫ばれたのは80年代のバブル期(地域間競争なんて言葉が流行った)、いわきの成功は地方自治体の学ぶベき先進例のひとつだったものだ。『千と千尋』でリゾートの廃墟が描かれたのは2001年、その5年後に封切られた本作は、何を今更というタイミングだった。いま観ればなおさらである。時代の転換期には発想を変えねば、というメッセージは判るが、高度成長期のリゾートをその例にされても切実感がなく、昔は良かったねという他人事の受け止めしかできない。ただ、時代の徒花として踊子たちにも奇跡的な成功があったのだと捉えれば、突き抜け感は覚える。

労働組合が足引っ張りの役処である。当該スパリゾート協賛にしても、このような展開は20世紀の映画にはまずなく、組合組織率低下の昨今の空気があるから初めて描けたのだろう。個人的な体験でも労働組合の連中は依怙地で守旧派であり、こんな事件を起こしたのはありがちなことだと思う。しかし依怙地が必要な世界もあるのであり、労働権がないがしろにされるフリーター人口の多い昨今において、本作の切り口が有効なのか疑問に感じる処もある。

蒼井優は高校を辞めて別にボランティアをしている訳ではなくリゾート会社に雇用されたのだから、彼女を体育館に寝泊まりさせる会社はそれこそ労働権をないがしろにしているのではないか。偉いさんを出さずに担当にストーブを掻き集めさせるのもどうかしているし、松雪と組合のいざこざにしても推進派の会社が間に入って当然だ。まさか社員が岸部一徳しかいなかった訳でもあるまいに。最後まで黙々と働く豊川悦司は会社には都合のいい奴だなあと見える。

あと、気になったのは松雪が『がんばっていきまっしょい』(1998)の中嶋朋子に余りにも似ている処。「私も一緒にステージに立ちたい」というラストの励ましの言葉まで同じで、剽窃とは思いたくないがちと白ける。松雪・蒼井のダンス・シーンは、ここだけがもっさい感を漂わせた演出と鮮やかな対照を示しているのが巧みなものだが、往年のハリウッド・ミュージカルを愉しんだ者が観れば、カットを割り過ぎで迫真度が劣る、MTV世代の悪い癖、と云うだろう。

これだけ文句を書き連ねた割りに高得点なのは我ながら滑稽だが、俳優陣の好感度がこれ以下の点数をつけさせてくれない。徳永えりは特に素晴らしく、最初の顔だけ笑っているぎこちないダンスなどとてもいい。踊子映画はやっぱり、遣る瀬無いのが心に残る。

(評価:★4)

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