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[コメント] 群衆(1941/米)

唇の傍を絶妙に持ちあげる本作のバーバラ・スタンウィックでもって、ネジの外れた知的な饒舌で物語を転がすコメディエンヌ造形はすでに頂点にある。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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もちろんその誉れはジーン・アーサーに与えられるべきなのだろうが、コケットリーにおいてスタンウィックは彼女を上回っている。60秒かかるシーンを40秒で演じるよう役者に最初に命じたのはホークスではなくキャプラだそうだ(『狂乱のアメリカ』において)。

その成果である細かいギャグは相変わらず素晴らしい。新聞社から知事までの電話の数珠繋ぎは『一日だけの淑女』の応用。硝子扉への名前の書き替えとか、「カモメ」とか、こけ続ける灰皿とかブレナンがオカリナで吹く葬送行進曲とか、ゲイリー・クーパーのホテルの窓からの飛び降り(『毒薬と老嬢』の予告のようだ)とか、写真撮影におけるピッチングフォーム(横から捉える画がいい)とかミスジャッジへのクレームとか。

この野球ネタが中盤の初講演における「チームメートは隣人」という主張に生かされるのが上手い。私的ベストショットはクーパーとウォルター・ブレナンの貨物列車でのハモニカとオカリナの掛け合いの件で、合成だからこその力強い夕陽がとても良かった。

さて、本作の欠点は明らかに終盤で、舌足らずだし、政治を批判するのか参加するのか半端だし、ブレナン(車を買ったら雪だるま式に出費が増えるという「亡者」の指摘がいい)が生かし切れず余計者になってしまった(なお、イブに市庁舎からの飛び降りは序盤に予告されていたので全員集合は不自然ではない)。この終章、解決編は省いて観るべきなのだろう。そうすれば本作は殆どコスタ・ガヴラスの『』に近い。すでにアメリカ政治集会はショービズ化しているのが確認できる(正確な描写であるとのこと。アメリカ共産党がマディソン・スクエァ・ガーデンを満席にしたこともある由)。

自殺志願者を装わされる空疎なカリスマとマスメディア王、とは「1984」の世界に通じている。スタンウィックはこのカリスマなしに、父の遺言を表明できなかった。人を団結させるには死者を必要とするのだ。キリスト教のように。この認識は様々な感想が湧くところがある。

(評価:★4)

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