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[コメント] 記憶の代償(1946/米)

主人公の動機も物語の収束もお座なりなものだが、中盤の幾つかの狂ったような断片はヒッチコックのような面白さがある。邦題は説明過剰でしかも外しているのではないか。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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導入、ベッドの主観で自分の名前も思い出せないジョン・ホディアク(二枚目からズレた顔が整形後を思わせて絶妙)、「私と同じ苦しみを味わえばいいのよ」などと自分を批難する文章の書かれた紙片を財布に発見して、ヤバそうだから記憶喪失は黙っていようと軍医に隠し、細い糸を手繰って自分の来し方を探しにかかる。

まずこれがお座なりだろう。記憶喪失のままヤバそうな自分の居場所に帰るバカはいないよ。誰だって軍医に治療ないし保護を依頼するだろう。テイラーという奴に化けよう、という悪意交じりの行動はとても面白いのだが、内実が伴っていない。それから色々あって彼は殺人犯ではなかったと判明するのも、ドラマがないため、ご都合主義のお座なりにしか見えない。

このように筋の根幹は頼りないのだが、周辺の断片は面白い。特にいいのが、彼の昔を知っているという初老の女にいい寄られて逃げて、彼女が窓辺で絶叫すると車に轢かれかける件。それから彼の父を訪ねて深夜の病院に行くと掃除夫がいて、その男は214号室だとか云うのだがホディアグは病院に追い出され、再トライして忍び込むとその部屋で掃除夫が死んでいたという件。その他、彼や彼女が意外な処で再登場というタッチはヒッチを想起させる不気味さ、愉しさがあった。

ホディアグのテイラーは、探しているラリー・クラバットその人だという処に物語の面白味はあるのだが、このネタバレを映画は中盤にしている。ジョセフィン・ハッチンソンが娼婦のように彼の部屋で振る舞うとき、安もののマッチ使ってお前は上流階級じゃねえと追い出し、その推理から彼は元刑事ではないかと思わせておいて、ロイド・ノーランの刑事にラリー・クラバットは元私立探偵だと云わせている。終盤あまりに突然に発覚するのも唐突感があるから、この中盤で匂わせておく、というテクニックなのだろうか。

中華料理店は似たセットを見たことがあるような気がする。他の映画と使い回しているのじゃないか。「戦争に勝ったから御馳走がいただけるわ」とつねにウィットの効いたジョークを飛ばし続けるナンシー・ギルドがいい造形。唇の端がいつも笑っているような、ユニークな女優さん。何でホディアグに惚れるのかは永遠の謎の類。

(評価:★3)

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