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[コメント] ノーカントリー(2007/米)

一切語られない銃規制について
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アメリカの銃規制はクリントン政権のときに時限立法として成立し、ブッシュ政権の際に失効している。本作の舞台は1980年だが、ブッシュ政権末期に制作されている。これを踏まえて観ると、このシリアスな物語はいろんな感想が浮かぶ。もちろん、劇中で銃規制の話題は一切語られないが、アメリカ人ならこれを前提として本作に向かい合っていたのではないだろうか。

ベル保安官の、最近の殺人は理解できないとの独白から映画は始まる。しかし、銃規制が行われれば、シガーはともかくルウェリンは銃など入手できず、本作の事件は起こりようがなかった。他の先進国ではありえない事件である。終盤、先住民に撃ち殺された先祖を回想してから、ベル保安官に叔父は、この国は人に厳しいと云う。「何も止められない、変えられると思うのは思い上がりだ」。銃規制など思い上がりだと聞こえる。

本作の主要人物は皆、ろくでもない終わり方をする。引退した保安官はどうか。焚火を焚いて待っている父親の夢を語る。これもろくでもないとシニカルに語っているとするのが物語の配分というものだろう。父親の通った道を辿っても、何も止められなかった、と。「人が敬語を話さなくなった」から猟奇的な事件が起きる、という彼の中西部的な認識は老いた道化のようなものだ。実際は銃規制ができないから、猟奇的な事件が発生し続け、誰も止められない。

原作未読、悪夢が折り重なる展開はポール・オースターが想起させられる。受信機や助手席からの運転などは既視感のあるところだが、犬との川下りは実に素晴らしい。本作の白眉はハビエル・バルデムのシガーであり、二度繰り返される自分への手当はまるで都市のなかの孤独な肉食獣のようだ。しかしこの男には、銃がなくても酸素ボンベがあるな。

(評価:★4)

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