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[コメント] 第3逃亡者(1937/英)

爽やかなノヴァ・ピルビームの冒険を語ってとてもいい原題。邦題は何なんだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







愉しいラブコメ・サスペンス。すでにルビッチも『或る夜の出来事』もあるのだから独創的という褒め方はできないんだろうけど、もうすでにラブコメの基本が出揃っている感が嬉しい。風俗意匠を着換えさせたら最新のラブコメができるだろう。ビルビームの心情は(3セントの借金以外は)何も説明がなく、ただデリック・デ・マーニーが気に入ったといった風なのもこのジャンルらしく軽さが徹底している。

顔のアップがとても多い。スタンダードサイズからはみ出そうなのまである。映画マニアは顔アップを嫌う傾向があるが、何だヒッチだって撮っているじゃない、という発見があった。有名なジョージ・カーゾンにクレーンで寄っていくショットからしてそうだ(あの件はイギリスでのミンストレル・ショーの形態を記録しているのも興味深い)。

気に入ったのはふたりの逃亡中のふたつの件。ひとつ目は酒場でよく理由が判らないまま始まる喧嘩で、ピルビームは喧嘩とカウンターとの間に挟まれて顔が折り重なり、乱闘は泥臭くかつ躍動的に展開される。ここは短いが実に印象的、こんなに巧い喧嘩のシーンは稀だと思う。乱闘はデ・マーニーが柱に後頭部ぶつけて終わり、ピルビームが彼の傷を噴水で手当てしようとするのだがその噴水が勢いよく出たり止まったりして、その度に顔を上げ下げするというギャグに至る。これ、ベタなんだが、リズムがいいので笑えてしまう。

もうひとつがビルビームの叔母(マリー・クレール)の家に立ち寄り姪の誕生パーティに巻き込まれる件で、こちらはヒッチらしい目線の交換が折り重なり、徐々に疑いを抱き始めた叔母はなかなか二人を放さないのだが、最後は叔母がかくれんぼうで目隠しをされ、二人は逃れる。目隠しで叔母は目線の交換を禁止された具合なのだ。巧いものだ。変な被り物も愉しい。

廃坑に車落とす件は突然のシリアスなアクションで驚きがある(カット割りが実に細かい)。その他もミニチュア特撮の冴えた作品だが、原寸の撮影自体が当時のピンの甘さでしばしばミニチュアに見える処があり、そこで得した完成度という気がする。犯人探しがいい加減なのは別に本作に限らず善悪明瞭なヒッチらしい処で古典的なスタンス、その辺は見処にはならないのだろう。

(評価:★4)

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