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[コメント] 喜劇一発勝負(1967/日)

山田洋次若気の至りか。人情喜劇としては落第点、ということぐらいは百も承知のうえで、何か別の次元に踏み出そうとしている、その意欲はひしひしと感じられる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







家出していたハナ肇が突然戻ってきて、温泉採掘に成功して大笑い、という話。全般にギャグはあまり面白くなく、ただハナの貧乏暮らしの凄さばかりが記憶に残る。例えば成功後、一緒に苦労した谷啓犬塚弘らがどうなったのか、全然触れられないのはおかしい。人情喜劇として欠かせない美味しい処なのに。編集でカットされたのか。

印象に残るのは収束、ハナが娘に裏切られた際、やっと親不孝の意味が判ったかとハナを狂ったように嘲笑う親父の加東大介。このタッチが調子外れで、実にシニカルなのだ。ノアールの異常人格ものを彷彿とさせるもので、喜劇としては変調としか思われない。娘が高速道路を自動車で走り去るラストもやたらシニカル。

しかし思えば、この異常さは、温泉採掘の空疎な成功物語と見合っているようにも思う。よかったねハナ、で終わらせてなるものかという奇妙な意志が感じられてならない。長い松竹の歴史のなかで、人情喜劇はすでに山ほどつくられ、世はヌーベルヴァーグの渦中だのだ。定例の収め方など重々承知のうえで、これを脱臼させてやろう、と試みていると取りたい。

シニカルな高度成長期に人情喜劇はもう成立しません、と云っているようにも思われる。

お兄ちゃんとハナを迎える倍賞千恵子は寅さんものとは別人、『霧の旗』系のクールさで仕切っていて、彼女のよそよそしさも作品の異常なタッチに見合っている。

(評価:★3)

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