[コメント] 母は死なず(1942/日)
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序盤の失業話はいい。「いよいよ明日からルンペンだ」の失対通い、床屋の鏡を掃除するスプレーの営業についた菅井一郎が、自分の屈託した姿を映した鏡にスプレーの泡かけるショットがいい。空元気で宣伝文句を喋りまくり、営業ってたいへんだなあと感じさせられる。
胃の調子が悪い入江たか子の、なんのこれしき私も武士の娘、というので先祖の回想、西南戦争に出征する夫を追って妻は喉を刺して自害した、という凄い件が自分の運命の前振りになる。彼女は不治の病を苦にして、息子のためを思い自害する。場面は周到にも映されないが、当然に喉を突いたのだろう。
しかしこれは何なんだろう。こんなにも自助・共助・公助のうち自助しかない世の中だったのだろうか。これでは楢山節考の昔の口減らしと同じである。草書体の妻の遺書とポジネガ反転の風景を背景に夫が歩く、みたいな派手なテクニックはナルセらしくなく、まるで自分のフィルムと認めていないようではないだろうか。
菅井の発明は入江の霊のお導きな訳で、百田も吃驚のご都合主義的祖霊信仰。やれ盧溝橋だ漢口陥落だと記録映像が流れ、最後は息子は逞しく朝鮮へ、親父は社長になり戦時工場の竣工式、愛国行進曲でバンサイして終わる。OPには「忠魂へ遺族援護の捧げ銃」とあり、対米開戦以前にも遺族が多くいたと記録している。
俳優単位ではとても優秀な作品。このとき菅井一郎は菅原文太、入江たか子は山本富士子のそれぞれ全盛期にそっくりだ。宝塚出身の轟夕起子のギター伴奏つきのハミングが聴ける。全てが実に無駄遣いである。
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