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[コメント] 白い崖(1960/日)

演出で面目を保ってはいるが、全盛期の今井・菊島とは信じられないほど話が薄い。
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ともかく推理劇として話が出鱈目でいけない。佐久間良子は「脳梗塞で遺言ができるはずがない」と医師に云われて木村功を疑うのだが、そんなもん遺言は発病前にするに決まっているし、父の訃報を聞いて有馬稲子が何で帰省しないのか判らないし、佐久間を殺した木村がどうやって家に辿り着いたのか不明で、それまでに事件が家に報告されていたらアウトという危険が何も考慮されないのは手抜きだし、殺される中原ひとみが何で別荘にいるのか判らない。穴だらけである。

佐久間の突然死辺りから話は迷走に継ぐ迷走であるが、どうにも無理矢理感がある。黒沢清のような面白味のある脱線ではなく、無理からに話を注ぎ合わせているだけのように観える。新藤英太郎の遺言の偽証だけを企業のドロドロと組み合わせてじっくり描いた方がずっと面白かっただろう。できる山形勲とバカ殿な加藤嘉の対比など膨らませたら愉しそうなのに。こういう題材はヤマサツの方がずっと上手い。主題は今井らしく階級差であり、当時流行のアプレの末路なのだろう。二度登場する浦辺粂子と、育ちが悪いと口走る佐久間、ラストの有馬が見下ろす夜景に主題は凝縮されたのだろう。しかし、いかにも取ってつけたような印象に終わる。

本作の見処は序盤の木村の秘書業で、やたら穿った断片の連発が面白い。私も市長秘書みたいな仕事をしたことがあるので懐かしかった。重役から分不相応に丁重に応接され、酒席を仕切り、中居と軽口飛ばし合い、「秘書は黒子ですから」などと云いながら秘書同士近づきになり、社長の発言だと云えば異常なほど深刻に受け止められる。二号の情報集めたことはなかったが、できる秘書はそこまでするものかと感心した。社長にだけうとまれているというドロドロした設定もリアル。あと、木村が冒頭の水上スキーが上手いのに感心した。

豪華女優陣の共演は愉しい。佐久間は可憐で、途中参加なのに場の空気をさらう有馬は見事なもの。その他の登場人物に理性が全く欠けているから彼女の知的な造形が心地よい、という演出の妙もあるだろう。中原と藤間紫はふたりに喰われて地味に留まる。本格的に中原を語るなら、彼女の来歴に尺を取る必要があるだろう。やっぱり、話を膨らまし過ぎと思う。ただ、序盤から木村の前に出る度に中原が頬に手を当て、それだけで惚れているのを示す演出はシンプルでいい。織田政雄はいい味だしており、クロサワはこれ観て『天国と地獄』に抜擢したのかなと思った。

(評価:★3)

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