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[コメント] 樺太1945年夏 氷雪の門(1974/日)

いざというときの覚悟という戦中教育の悪影響、甘いセンチメンタリズム、時代が生んだ思想の悲劇だと思う。頑張って逃げている無名の人たちの方にシンパシーを感じる。ソ連も日帝も酷い。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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真岡町、人口2万4千、北洋漁業と王子製紙の町と語られる。南樺太は九州の広さがあるのに兵隊は一個師団(1万から2万人)。攻められたらどうしようもなかった。日ソ中立条約は延長されないと、交換手たちが茶話会で噂している。

9日、ソ連参戦。「積極的な攻撃に出て越境すべからず」という訳の判らない上からの指示に、丹波哲郎の参謀長は密約でもあるのかと疑う。戦争終結の噂を方面軍は知っているのではないか。国境地帯からは南下退却。避難中に発狂する母を紐で引く栗田ひとみの件は長すぎて、当時らしい差別に甘い描写に見える。

16日、終戦になっても空襲。方面軍から丹波へ「自衛のための戦闘は継続すべし」。緊急避難命令(婦女子)が出て16日から実施、真岡から出港。「どうしても行かなきゃいけないの」「だって負けたんだもん」。満州と同じで、占領地だから引き揚げねばならないという認識はある。ここで生まれ育った故郷なのになぜ、という二木てるみの言は植民地政策全体への批判として聞くべきだろう。岡本茉莉は先にこの引揚船に乗り、船は敵襲で沈んでしまう。脇役で残念。

19日、丹波の「国際法を踏みにじるのか」に「負けた国に国際法はない」と無茶苦茶云うソ連。このソ連の禿将校が誰なのか残念ながら明記されない。

20日にソ連軍真岡上陸。民間人撃ちまくるのも史実なのだろう。攻撃されても応戦するなという日本軍の指示も無茶で、自衛だし国際法を相手が無視しているのだからもはや「戦争」ではないのにと思う。白旗あげて撃たれている。日本軍が白旗なんてよくよくのことなんだろう。ソ連同様に日本軍の対応も信じられない。

そして自決。野原で集団自決しちゃう(なぜかよく判らない)秋子の岡田由紀子が印象的。電話交換手の主人公たちも自決する。藤田弓子はなんで青酸カリ持っていたのだろう。前線の女子は持っていた、持たされていた、ということだろうか。若い頃の彼女は本当に可愛い。

「私たちは交換手よ」と働き続けて逃げ遅れる原因をつくる二木は班長として適任だったのかとも思う。リーダーが残っていては逃げられないだろうに。幼い弟が来ても追い出している。ワーカホリックの悲劇というニュアンスが強い。「最後までこの交換台を護ったのよ」という満足、青酸カリの自死は、いざというときの覚悟という戦中の教育の悪影響、甘いセンチメンタリズム、時代が生んだ思想の悲劇だと思う。

「配給会社がソ連の圧力に屈して全国公開が阻まれた」というのは不正確とWikiにあるが判然としない。予算はなかったのだろう、特撮や戦闘はショボい。そこを観る映画ではないが、そこが長い。自衛隊から借りた戦車は勿論T34ではない。「軍旗奉焼」という儀式は始めて観た。全員捧げ筒でラッパの鳴るなか軍旗が燃やされている。電話交換台の使い方が細かいのがいい。できればもう少し見たかった。

(評価:★3)

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