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[コメント] 桐島、部活やめるってよ(2012/日)

吹奏楽部が奏でるのが「ローエングリン」なのだから、このクライマックスは『チャップリンの独裁者』だ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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主役不在の端役祭りという設定が優れており、体育部、文化部、帰宅部男子・女子の恋愛絡みのヒエラルヒーの描写だけで充分面白い。このままこの階層構造をリアルに積み重ねても相当の作品になっただろうが、収束は文化部の「想像力の叛乱」につき進む。チャップリンはヒトラーに勝ったではないか、という。

吹奏楽部長の大後寿々花奏でる応援歌「ローエングリン」にのせて叛乱を起こす映画部長の神木隆之介、この二人は面と向かっては対立しているがチャップリンの線で図らずも共闘している、というのが本作のミソになっている。「戦おう、ここが俺たちの世界だ、俺たちはこの世界で生きてゆかねばならないのだから」この科白はとびきり美しい。先生から指示された1キロ範囲の映画を、このデブばかりの情けない映画部は、なんとゾンビ映画で達成してしまう。こうなるとセカイ系も捨てたものではない。

橋本愛松岡茉優をぶん殴ることで主役逃亡に始まるヒエラルヒーの亀裂は表面化し、叛乱は結果を出した。こんなのは普通ありえないが、しかし確かにどのセクトにも中立な天使のような生徒は、いつもどこかにいたように思う。橋本のような存在が実は集団の要だと捉えているのが優れている。一方、元帰宅部としては、帰宅女子部を収束において追いかけるのを止める構成は少し物足りない処ではあった。もっとも、彼女らにあれ以上の展開はないのかも知れない。野球部長の駄目押しな情けなさはちょっと凄い。

「太陽が沈んだら今日の撮影はできない」という難癖のつけ方は、「今日の陽の光じゃないと駄目なのだ」とゴネるゴダールの『フレディ・ビュアシュへの手紙』が想起される。これも引用なのだろう、多分。記憶によれば神木部長は『濡れて打つ』にも出演している。多分お父さんなのだろう。

(評価:★4)

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