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[コメント] ロスト・イン・北京(2007/中国)

腹黒さが競われる大映好みのサスペンスで、序中盤の喜劇は面白いんだけど終盤は弱かった。問題になるほどのエロ描写は見当たらなかったが編集後なのかも知れず。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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序中盤は喜劇で、独特の味があり面白く観れる。「やられたことをやりかえすのよ」と社長の浮気を告発する夫アン・クン(トン・ダーウェイ)に馬乗りになる社長の妻(エレイン・チン、『牯嶺街』の主人公の母親役の女優)など爆笑ものだし、鬼畜な林社長(レオン・カーフェイ)がまだ判らないのに俺の子だと突然に子煩悩を表明する(社長夫婦には子供がいない)のはありがちだがユーモラス。事の発端は林社長の一方的な強姦ではなく、妻で社員のピングォ(ファン・ビンビン)の泥酔による誘惑なのだから、喜劇にならざるを得ない。

産まれた子の血液型で確定する予定の、どちらの子かを宙吊りにする中盤が続き、誕生。夫の子と判明するが、夫は医者に血液型書き換えさせて子供は林社長に引き取られ、夫は大金貰い、それから子供を盗んで捕まって、警察が鑑定して夫の子だと判り社長は衝撃を受ける。夫と社長で子供の取り合いになり、裁判が匂わされ。これを避けるべく妻は赤ん坊抱いて逃亡。社長のベンツを夕暮れの渋滞の道路で社長と夫が押しているラスト。

このように終盤はシニカルで深刻になり、しかしこれでかえって本作の印象は薄くなった。人が誰の子か判らないのは人間の条件であり(過去の話だろうか)、これを扱う劇は「エディプス王」以来星の数ほどあるだろう。勝負する相手が拙かった。同じショットを中抜きしてスキップする編集が多用されており、これは序中盤の喜劇には命中していたが、話が深刻になる終盤には似合っていないように見えた。

最近の中国映画らしい軽量キャメラでの顔接写の追っかけ、背景ピンボケという方法が、ゼロ年代の本作でもすでに見られると確認できる。この手法は検閲に対抗するテクとして発達するのだろう。本作では北京の街のコラージュなどあり何も隠していないように見える。この頃すでに高層ビル林立ですごくて、一方、壁に貼られた広告で中絶の病院探すのは壁新聞からの伝統が見えるように思われる。どの段階でさわった編集か判らないが。中絶したのか・血液型を書き替えたのか、はっきり示さない作劇は、どうでもいい処で紛らわしかった。

(評価:★3)

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