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[コメント] 永遠の0(2013/日)

前半の思想で押し切ったら『人間の條件』や「神聖喜劇」に伍する名作になりえたかも知れないが、百田がそんなことする訳ないわな。こそこそ隠語など使わず「永遠の零戦」ってちゃんと表記しよう。
寒山

**ネタバレ注意**
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序盤、岡田准一はある種のスーパーマンとして提示される。『人間の條件』の梶や「神聖喜劇」の東堂の類型にあたる(『キャッチ22』のヨッサリアンに似ているとも云える)。戦闘を避ける名飛行兵という造形は興味深い(なんで軍法会議を避けられたのかよく判らないのが難だが)。彼の思想が説得力を持ってその強度を突き詰められれば、上記二作に伍する作品になったかも知れない。しかし無論、百田がそんなことをする訳はない。詰まらぬネタフリに終わる。

岡田の思想に強度など何もなく、周辺事情に軟弱に流されて行く後半は空々しくも退屈。「彼等の犠牲のうえに俺は生きながらえているんだ」という特攻における岡田の気付きなど、戦争の最初からそうなのであって、ミッドウェーで戦死した兵士はどうなんだと云いたくなる。ただのヌケ作だったというだけで何の葛藤すら伝えてくれない。

狡いのは空戦の特撮が前半、連戦連敗にもかかわらず日本軍が米機を打ち落とす描写ばかりすることで、岡田が改心するほどは事態は深刻じゃなかったんだなあと擦り込ませようとしている。見え見えではないか。

岡田がミッドウェーからガダルカナル、サイパン、鹿屋と主戦場を上手に転戦して戦況をアナウンスして回る話法は貧しく、その他もグウタラで始める三浦春馬のありふれたナビゲートとか、喋り終えたら死んじゃう橋爪功とか、井上真央の貧乏話のお泪頂戴とか、レベルの低い演出の連発に心底うんざりさせられる。

最後は疑似輪廻思想まで登場する。未亡人の井上を引き取る染谷将太は岡田の生まれ変わりらしい。死んだら神の元に召される、イスラムのテロリストの狂信の日本版が提示された訳だ。実におぞましい。

特攻と自爆テロは同じか違うか論争が集団デートの場で繰り広げられる。これは同じだという友達のほうが圧倒的に正しい。特攻は駄目だという処から全ては始まるべきだ(これは個々の特攻兵は駄目だという意味では全然ない。本作はこれを積極的に混同し、まるで戦後などなかったように戦中思想を語る旧軍人ばかり作為的に揃えているが)。

しかし予想通り、映画は真逆を主張する。違う論に立つ三浦は会場を逃げ出し、なんと任侠の田中泯の処へ走る。右翼政党に結集せよとでも云いたいのだろう。「物語を続けるべきだ」と夏八木勲は総括する。永遠の零戦。恐ろしい映画である。

(評価:★1)

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