撮影一流話は三流、と観ていたが、オチで認識を無理矢理変更させられた。前田敦子がアジトの暗証番号を記憶している辺りの展開も、彼女がプロなら了解される訳で、途中の出鱈目さが見事に回収されている。巧みな脚本だったのだ。しかしそれでもって驚きがある訳ではなく、ただ上手なだけ。

この長いＰＶに盛り込まれた諸々は要するに秋元康（企画）の掌で踊らされている感ありありで萎える。ヌーヴェルヴァーグやニューシネマの志に何も付け足さず縮小再生産され、パッケージされて商品として消費されている。格好いいだけで生々しい描写が欠落する様はアイドルＰＶ以外に活用しようもあるまい。ロシアの捉え方など類型的でリアルな処皆無。アイシーとの異郷での一期一会もまた類型的で脚本教室レベル。彼女の下手糞な演技は前田を上手に見せるための対照だろうか。

嬉々としてシャレで撮ったのならまだいいが、黒沢ほどの実力者がこんな仕事をしているのは、環境の貧しさを語っているのじゃないかと心配になる。このレベルにローマは賞を与えていいのだろうか。