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[コメント] おかあさんの木(2015/日)

五男の出征の件が素晴らしいもので、邦画史的にキノシタ『陸軍』をフォローしており、あの田中絹代もまた「不敬反戦反軍的行為」に該当するのだと判るのだった。母親について考えさせられた。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







息子ひとりでも国に取られたら親は苦しかろう。亭主もいないのに国は無慈悲に引っ張る。これが七倍になる。悲劇だが、繰り返しの喜劇のニュアンスが出てくる。阿呆らしさがいや増しに増すのである。

序盤のまだ、そんなものかという鈴木京香がいい。神州不滅と息子に教えられて、ああ戦死なんてないのかと信じていて、最初の桐の木植えながら「いざ行け強者、日本男子」と囁くように歌うのが哀しい。

細部の豊富なのも美点。役所の兵事係の有薗芳記がどんどん貧乏神に見えてくるし(彼に見せ場を設けるの演出が優しい)、来訪者が減ってゆく銃後奉公会も、七人いたからのインパクトだった。「遺族之誓」という五箇条を国防婦人会のタスキして読み上げる件があった。何でもマニュアルばかり多いのは、現在のコロナ禍の注意事項とおんなじだと思った。

産婆の松金よね子が三井弘次そっくりに老いているのは驚愕。猫まで供出させられている。神州全滅と県庁で落書して憲兵に追われている波岡一喜の断片は発見で、こんな頼もしい運動家もいたのだろうか。

ただ、被害者意識ばかりで加害者意識が皆無なのが相変わらず本邦戦争映画の困った処だ。中国人に対して何も云うことが準備できていない。日本兵に微笑む姑娘の思い出なんて件は余りにも願望だけの演出だし、八路軍に中国人を同士撃ちさせてフォローがないのもどうかと思う。

(評価:★4)

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