コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ディストラクション・ベイビーズ(2016/日)

この映画の前半は最高だ。後半、物語の作法に几帳面に従うのが余計に感じられた。
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作は前半が掛け値なしに素晴らしい。まずオープニングが素晴らしい。NUMBER GIRL以来のディストーション・ギターが港町の風景に鳴り響くと、ロック小僧だった頃の閉鎖的な夢想が場所柄もわきまえずに町中に解き放たれたようで驚嘆してしまった。見事な主題の視覚化、音響化。しかしそのような個人的な感慨に浸っていると、柳楽優弥に最初に餌食にされるのがギタリスト。お前ら音楽ヲタクの映画ではない、とさっそく釘を刺された具合で参った。これは意図的だろう。

撮影は特筆ものではなかろうか。格闘シーン、昨今の暴力映画にありがちな手持ちキャメラではなく、ビスタサイズに望遠ぎみのキャメラで長回しするのがいい。久し振りに黒澤映画の直系を観たように思う。画面の端々まで統括されており、折々に柳楽の殴られてもへらへら笑っている表情をしっかり捉えるのだ。箆棒に巧い。

こういうとんでもない奴を扱った映画はどこかでお目にかかった。『丑三つの村』や『ノーカントリー』が想起されるのだが、更には昔オールナイトで観た、名も忘れた大蔵系ポルノ(若松ではない、若松は意味づけする人だ)に出演していた、道徳感を逆撫でするだけの連中がおぼろげに甦ってきている。本作は彼等がソフィスケートして再登場した趣がある。

このまま、いつもただポカポカやっている町のおかしな奴、でお仕舞にしたら、柳楽の栄光と悲惨が印象づけられた実に過激な映画になっただろう(ただし、実存的(!)には余計なお世話なのだが、傍目には精神を病んでいるであろう者を一定期間放置しているのはよろしくない、という見方ももっともな処があり、そこはもうひとつ仕掛けが必要になるだろう)。

しかしそこは劇映画の限界、三人の逃避行の物語になると比較的地味になる。いや、菅田将暉の女を狙った飛び蹴りこそ本作でもっとも非行なもので、彼もよくこんな役引き受けたものだと感心するが、ピカレスク振りが類型に収まり始めているのをどうしようもないし、柳楽も「楽しければいい」などという観客の想像力を狭める科白を吐くべきではなかっただろう。菅田は偽物で柳楽は本物、小松菜奈は云々、という物語が発動するのが地味だし、柳楽が負け知らずになるのも詰まらないし、物語はコーエン兄弟の悪夢ものに似過ぎてしまった。それでも撮影がいいのでレベルはとても高い。

収束は纏め切れていない。警官に見つかる柳楽が殺していた(?)のは誰だったのか。物語の進展上は、弟の村上虹郎の友人の北村匠海か、親代わりのでんでんであるはずだ。ここの処はっきり断定しない(私が見損ねただけかも知れませんが、顔は映らなかったはず)のは、観客の想像力に任せたという建前だろうが監督の自信のなさの表れに見える。でんでんであれば顰蹙の物語は更に拡大され、北村であれば兄弟愛が突然現れることになる。

ネット評を眺めていて成程と思ったのは、タイトルは「コインロッカー・ベイビーズ」の引用だ、というもの。つまり本作は破壊衝動と兄弟愛の話なのだ(ディストラクションは「破壊」と「気晴らし」がかけてあるらしい)。冒頭、柳楽が集団リンチされるのを村上が偶然見かけるのと同じアングルで、後半にでんでんは村上が虐められるのを見かける。ここで暴力の連鎖という主題がはっきり示されている。柳楽の暴力も虐められた仕返しから始まっているのが強調されるのであり、ここから見ると、柳楽が殺したのは北村になるだろう。しかしこの兄弟愛は突然すぎやしないか。弟は一生懸命探しているけど、兄貴は何の前振りもないし。

そして村上が遭遇する喧嘩祭りだ。ここに来て撮影がえらく平凡になり退屈なのだが、これはどういう含意なのか。祭りの喧嘩は本来、人間の暴力衝動を蕩尽するための社会的なシステムだろう。これは本作がここまで積み上げてきた日常的な暴力と対照的な存在であるはずだ(ネット上で爆発する事件の噂の件からは、あれもまた社会の蕩尽のひとつという視点が感じられた)。しかし祭りにうっとりする村上の表情と、戻ってきてニヤリと笑う柳楽というシンクロ具合にはそういう視点はなく、これからも連日喧嘩祭りだぜ、と云っているように見える。思うにここでは、物語を中上建次系の神話に近似させようとしているのだろう。すると柳楽が殺したのはでんでん、親殺しということになる。しかしこれはいかにも唐突、そこまで広がりのある話になってはいない。いずれにせよ、収束は思わせぶりなばかりに見えた。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (5 人)DSCH ナム太郎[*] capricorn1 けにろん[*] ぽんしゅう[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。