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[コメント] 娘・妻・母(1960/日)

日本映画黄金の50年代の終わりを示す平凡作。カラー・ワイドに最も映えたのは端役の笹森礼子だった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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退屈な記憶しかなかったが、観直すとそうでもなかった。美点は金に細かいホンで、この点で松山善三はナルセと相性が良かったのだろう。「映画(名画座)3本55円」と「百万円って百円と一万円だね」(子役)が妙に記憶に残る。

中盤までは所々面白い。のちにニッセイのおばさんとして有名になる中北千枝子が保険勧誘の狂言回しというのはブラック。杉村春子の子離れできない母親もいい戯画。だが、嫁の草笛光子が「夜中水を飲みに起きたら襖の隙間からこっちを覗いているの」という件を映そうとせず、科白で処理してしまうのが詰まらない。マスムラなら絶対撮っただろう。撮らないのはナルセらしいのかも知れないが、ここではギャグが徹底されず淡泊に見える。杉村が最後に「老人ホームなんて絶対厭」と云うのは、時代の認識だっただろうか。いま観ると何か外している。

加東大介の扱いは拙いと思う。融資している森雅之は冒頭で彼を相当に除け者にしているのだが、中盤で原節子の金借りてまで追加融資を行う。この展開が何も説明されないため意味が判らず、森は精神を病んでいるとしか見えないのである。加東の倒産を会社名を消すペンキ塗り替えで示すショットは流石の流暢だが。

終盤は退屈。他の兄弟の冷淡のなか三益愛子にひとり寄り添う原節子、とは『東京物語』の殆どイタダキでありシラケるし、そこに善意の凸ちゃんが参入してふたりの善意は台所で対立し、よく判らないままに映画は終わってしまう。両スタアの落とし処に困ったまま放り出したようにしか見えない。ラストの笠智衆投入は困った末の強引技なんだろう。

室内の撮影は人物の影が壁にくっきり映るショットが多い(特に凸ちゃん)。これが何か意味ありげに見えて混乱させられる。こんなことはモノクロではなかったはずだ。私的ベストショットは故障で早回しになった8ミリ映画で掃除する凸ちゃんで、ナルセには珍しいサイレント時代の回顧があった。

(評価:★3)

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