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[コメント] 放浪記(1962/日)

菊田一男の戯曲の映画化。原作より著しく劣る。
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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本サイトには表記がないが、本作は菊田一男の戯曲「放浪記」の映画化。林芙美子の原作には後半の「女人芸術」への掲載に係る草笛光子との確執以降の逸話(掲載されて喜んででんぐり返り、とか)はない。

原作をこの度読んだのだが、実に素晴らしい。男がほしいと云いながら相手が醜男なら逃げ出し美男なら捨てられ、東京が嫌いと云いながら地方に行けばすぐ逃げ帰り、別れて暮らす母を慕いながら同居すれば邪険にする。「あまのじゃく」な自分への嘆きが500頁にわたって延々繰り返される強度はすさまじく、ひとつの女性像が生々しく刻まれ、そこに冷徹な客観描写が絶妙の呼吸で並ぶ(母と並んで野糞する描写など箆棒だ)。三畳間で暮らし、味噌を伸ばして飲んで餓えを凌ぐ貧乏話も量的に圧倒的(ちょっと調べたのだが、詩人仲間の辻潤は餓死しているのだった)。

菊田のアレンジ(原作でも第二部の最後で成功後の話が入るから、全くの創作ではないにしても)はこれらを相当つまみ食いに省略した代わりに上記の物語を加えている。あのような生活を積み上げた者は、成功の仕方も成功後も歪になるだろう、とでもいいたげな。凸ちゃんのグダグダした造形がこれを着々と準備し、ラストの「忠臣蔵の瑤泉院のような」田中絹代の変な格好によりこれが視覚化されて終わる。

映画としては見事だろう。しかしこれ、どういう感想を持ったらいいのか判らない。人に歴史あり、歪なあの横丁の婆さんも、歪になるだけの過去があるんだろうな、という位の感想が出るんだけど、しかし、それ以上に何かあっただろうか(鹿児島から出てきた親戚を追い返す件もあるが、親戚に虐げられた過去を映画では描いていないため、ただの意地悪に見えてしまうのも瑕疵だろう)。こういう人を認めてあげるのも上流階級の上品なたしなみでございますわね、という上から目線すら感じる。原作者は実際困った人だったらしいが、原作の高度な内省は週刊誌ネタとはレベルが違う。下層を愛情込めて描き続けたナルセがなんでそんな映画をつくったのかも判らない。そんなことを映画や劇場で確認しても仕方がないと思う。

(評価:★3)

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