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[コメント] 湯を沸かすほどの熱い愛(2016/日)

投げやりな構図や軽い劇伴も含めて70年前後のベタな人情喜劇のテイスト。監督は前振りと回収が劇作だという信念があるらしくこのオンパレードだがどれもいいものだ。昔よく使われた「良作」という評価が思い浮かぶ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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末期癌なら自動車の旅に出なくても終末医療を受け入れたらいいし、制服盗まれた告発でわざわざ下着姿になる必要はない(口に出せない不器用な娘の強調ではある)。それらは原則だが、ドラマは原則を越えた処にある、というのが本作の主張なんだろう。ある種超人的だからこその喜劇なんだろう。そしてグウタラなオダギリジョーにバランス取らせる。

それぞれの演出はあんまり上手いとは思えないが、ホンレベルで大量の前振りと回収が特徴的で、いちいちヒットしており上手いものだ。オダギリのピラミッドの模型プレゼントとか、手話とか、天国にいるお母さんとか。

宮沢りえ杉咲花に貴女は自分の子ではないのだと説明して、産みの母の篠原ゆき子の処へ行けと云うときに、勇気を出せ、「お母ちゃんの子でしょ」と云う回収がとてもいい。「母に会えるから死んでもひとりじゃないの」と死を説明するのもいい(母親発見でこの決心は放棄させられたけど)。

宮沢がとても痩せているのは、役作りだったのだろうか。「死にたくない」という宮沢最後の科白から2ヶ月経って、ああもう宮沢は死んだのかと間を開けてから映画は末期の宮沢を登場させる。これがとても心に残った。映画は便利な処で主人公を殺さず、闘病を見せた。

一方、ラストの風呂屋での遺体焼却(ということですね)はやり過ぎの印象で、これは「良作」のすることではないだろう。とつぜん作家性が露出している。これも、煙突からの赤い煙は「赤が好き」を繰り返す宮沢の回収なのだった。ここ、『天国と地獄』が想起させられるのは想定内だっただろうか。クロサワ映画の記憶とバッティングしてしまい上手くなかったと思う。男優がやたら敬礼をするのは監督の右翼志向だろうか。ロケは足利市ほか。

(評価:★4)

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