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[コメント] 生きてゐる孫六(1943/日)

映画としてはとても巧いのだが、話が話だけになんともはや。復古思想ファン必見。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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本作は木下の戦中4作品のうち、厭戦のニュアンスが全く見えない唯一の作品。最初の軍事訓練からして命の軽さについての同意が出来上がっている空気が蔓延している。上原謙の造形はコメディに寄っていて、持ち味の引き出し方としてとてもいいし、終盤のどうせ死ぬんだからと村の因習に分け入る展開に繋がるのも巧みなのだが、この軽みは特攻精神の全肯定のうえにあり、相当にエグい。吉川満子の心変わりが無理なく捉えられた終盤の白熱具合も実に巧みなものだが、話が話だけにそうですかと頷く訳にもいかず。アメリカ人を何人切っても刃こぼれしませんぜという河村黎吉の科白もエグい(当時の好戦映画でも敵軍に言及するのは意外と珍しくないか)。

興味深いのは、軍国思想は若者の思想であり、因習にとらわれた大衆を我々が啓蒙せねばならないという宮子徳三郎の認識。その因習とは吉川の土地に鍬を入れてはならないという云い伝えなのだが、するとここでは軍国思想が科学的ということになる。私たちは軍国思想と復古思想を同じものと考えてしまうが、ことはそう単純ではないのだ。打破された因習の結果があの軍の強引な土地接収(だいたいこんな美談などない。無茶苦茶に買い叩かれたのだ)なら、因習のほうがいいように思われる。郷土愛ってのはある意味因習だし。

冒頭の合戦の描写は必要だったのだろうか。吉川の土地に鍬を入れるラスト、そこに合戦の亡霊が突然現れ、鍬を入れている連中がバッタバッタと倒される、というオチにしたら全体に連関ができるし、面白かっただろうと思うが(冗談です)。名剣が生きているというタイトルはもうひとつ意味が判らない。山鳩くるみが可愛い。

(評価:★2)

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