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[コメント] パターソン(2016/米)

イラン人のゴルシフテ・ファラハニから日本人の永瀬正敏まで、マイノリティの天国のような町だ。アメリカの現下の情勢に対してジャームッシュが何を云いたいのか明快である。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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だからこその、この開けっ広げな肯定性なのだろう。パターソンという町は19世紀から人種のるつぼと呼ばれたらしい(Wiki)が、それを踏まえたうえでのひとつの理想郷が描かれているに違いない。ハリケーン・カーターへの言及、ひとりだけいるアナキスト、黒人ばかりのバーを好むアダム・ドライヴァー。ホームレスに施しをするカット。

ジャームッシュ好みのアンチ・プロット作だが、本作はもうポスト・モダン系と云うよりも、志賀直哉の「話のない話」に近いものが感じられる(たぶんオヅ経由でご存知なのだろう)。64歳ですか。私にはギャグがイマイチでちと緩すぎる世界だったが、この名監督のしなやかな老い方は感じることができた。

どうにも詰まらないのは肝心のアダムの詩。マッチ箱褒めるなんていかにもアメリカンで古臭いと思うし、それが本作の趣旨だとしてもパンプキンちゃんなどと嫁に惚気られても困る(谷川俊太郎先生が褒めているのだから、こちらの感性がおかしいのだろうけど)。双子の姉妹のひとりが読んだ雨の詩(これはプロではなくジャームッシュの自作だとか)の方が全然よかった。外注せずに全部自分で書いたらよかったのに。

序盤で何度か滝やその他のシンクロの画が現れるが、あのサイレント然とした古びた手法は何だったのだろう。『獣人島』はいかなる引用なのか(マイノリティとフリークスについて言及がある可能性があるだろう)、どこかのハコでリバイバルしてくれないものか。ゴルシフテのカップケーキが売れなかった、という転結の付け方かと思いきや、それが売り切れるという展開はこの世界の肯定性が突き抜けていていい。

アダムはこの不思議ちゃんな嫁がいつまでも大好きで寄り添い続け、嫁はカントリー歌手として成功し(ギター持った初日にあんなに弾けるかよ)、自分の詩はいくら書いても犬に喰われて出版できないのだろう。よき哉、という詠嘆が残る。あの町がボスニア・ヘルツェゴビナみたいになりませんように。

(評価:★3)

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