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[コメント] 赤線基地(1953/日)

告発映画の第一級品。米軍基地の町を抉って余りにも容赦がない。「あんたたち勝っていたら、金髪美人を抱けたのにね」
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







町はシスターたちに占拠されている。畳を鶏が駆け回る家庭内の一室に慰安婦が住まう光景自体、対幻想が共同幻想に乱入する倒錯、リアルを超えたリアルがある。現代の出来事なのに、中世ヨーロッパの軍隊に占拠された村と変わる処がない。周辺でラブシーンが横行し、爆音で算数の授業ができなくなる教室は殆どカフカの「城」の世界である。バス内で遭遇した男女の在り様を巡る喧嘩について「面白かったね」と感想を吐く子役の伊東隆の老成した達観が、浦島太郎状態の三國連太郎と対にされる。シスター、オンリー、バタフライ、パンパン。隠語の羅列の生々しさ。

三國の帰省第一夜、疲れているから知らせるのは後にしようという気遣いのある人ない人が入りまみれ、基地問題が噴出する。十朱久雄が結婚を断る件における基地に遠い隣村との見解の違いなど、さもありなんというジレンマ、原発立地問題とまるで同じだ。中北千枝子の連れ子は黒人、『キクとイサム』まで予告されている。付き添うシスターの老醜に、普遍的な娼婦一般の哀れまでが滲む。もう田畑も米軍に売られたという一言のダメ押し具合がまた痛い。清純な青山京子も成長したらどうなるや判らんというのが、想像しただけで息苦しい。

小林桂樹のハッピーエンドはとってつけたようだが、もうこれ以上の悲劇は堪忍してくれという観客の生理に寄り添ったもので、それも今後巧くいくとも限らない。根岸明美の突然の妖艶なラブアタック(「喧嘩したままお別れするのも何だから」と酒を注ぐ巧みさ)はシスターの世界からの脱出を賭けている訳で複雑な感想を惹起し、中北たちは置いてきぼりで何も改善されぬままだ。そして三船は町を逃げ出す。このラストしか選択の余地がないとは、何ということだろう。ハリウッド活劇なら基地をぶっ潰す処だろうに。

本作の広報によれば、本邦に当時の軍事基地は七百数十、付近住民六百万人。本作はジャーナリスティックな告発映画の第一級品。ここまで掘り下げた描写が空想でできる訳がない。綿密な取材に敬意を表したい。

(評価:★5)

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