コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 立ち去った女(2016/フィリピン)

リュミエール回帰とでもいうべきキャメラ置きっぱなしのプリミティブ感がとても好ましく、主題を呼び寄せてもいる。4時間弱使ってなお細部が隠されたままという物語話法も独特の味がある。
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







序盤に詰め込まれた情報の整理がややしんどいが、それを過ぎるとたゆたいの時間が体験できる。宣伝文句にタルコフスキーやミゾグチがあるものだから、長回しのキャメラはさぞ動き回るのだろうと思っていたら全然動かない。これが映画の先祖返りのようで面白かった。構図の才はたっぷりあり、同じ場面を時間をおいて別のアングルから捉え直す辺りの周到さもいい。

デジタルではパンフォーカスと云うのかどうか知らないのだが、屋敷から卵売りのおじさんの処まで坂道下りてまた上っていくロドリゴの件、その全てにピンが合っているショットが素晴らしい。このショット、ロドリゴが殺された直後に反復されるときは、手前のホラシア以外はピンボケで処理される。こういう細部がとてもクレバーだ。せっかくの長回し大会だからキャメラ横倒しのまま撮り続けるとかやってほしかったが、そういう無節操さがないもの主題に見合っているのだろう。

こういう映画だから、情報の整理は放棄しても構わないのだろう。冒頭の香港返還はどういう外延なのか(これだけはもっと意味がありそうなのだが)とか、ラジオで流れ続ける誘拐犯とは何なのかとか、ホラシアの冤罪において殺されたのは誰だとか、彼女が移転先で構える料理屋は何なのだとか、いろいろ判らなかったことだらけだが、こういうことは積極的に説明しない話法なのだと解した。

逮捕されたホランダや、あの印象的な乞食女のペトラ(彼女がホラシアにシャワー浴びせられる件は私的ベストショット)をもう少し見ていたかった。幾ら時間があっても足りませんなあ。ハリウッド的な物語話法を脇に追いやって、映画とは本来こういうものだと云っているように感じられる。ただ、ホラシアの最後の放り出し方もその線なのだろうが、印象を弱めた感は否めない。するともう、そもそも物語が必要なのか、劇映画って何なのだという処まで話は先鋭化される訳で、本作はそのスレスレの線を行っている。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)濡れ鼠 ぽんしゅう[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。