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[コメント] 心と体と(2017/ハンガリー)

色んな切り口で物語作法に工夫があり刺戟的。アレクサンドラ・ボルベーイは殆どリリアン・ギッシュを想わせる。
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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異類婚姻譚のバリエーションだろう。人魚姫とか白蛇伝とか鶴の恩返しとか。これらの婚姻はつねに失敗に終わる訳で、本作がユニークなのは例外的に成功に至ることだ。なぜかと云えばゲーザ・モルチャーニもまた鹿だから(!)。この物語類型転覆の仕掛けは実に粋である(しかし、これは成功だろうか)。

女鹿のアレクサンドラ・ボルベーイは人間の恋愛作法を一から学習する。発達障害のリアリズムを担保しながら、これをラブコメ潤色で徹底的に肯定しており、優しいタッチが印象に残る。物語作法としてこれもとても巧みだと思うのは、これが後半に集中することで、普通はCDショップでメタル視聴するようなギャグは前半に置かれるものだろうが、これが終盤の加速に向けて実に巧くハマっている。

思い返せば前半はゲーザ・モルチャーニの逡巡ばかり描いていて、アレクサンドラは女鹿が歩いている体でありまだ眠っていたのだった。彼の人格者な造形も美しいし、間抜けな周辺人物への目配りも優しい。恋愛指南する掃除婦の婆さんが素敵だ。

序盤の屠場描写の生々しさは終盤のアレクサンドラ自傷と並置され、鹿の静かな佇まいと対照されている。これも異類婚姻譚の常道で、人間世界の酷薄を動物視点で捉えている。ラストは多義的だが、アレクサンドラの不思議な眼差しはまるで女鹿に戻ったかのようで、工場に来てからの酷薄の全てを回想し、見据えていると解した。もう森に鹿はいない。歌はロードでしたか。とてもいい曲。ハッピーエンドはこの歌詞で宙吊りにされている。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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