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[コメント] 万引き家族(2018/日)

この人情劇は全て片山萌美の夢想ではなかったのか。娘を救えるのは万引き家族しかいないのかという悲鳴が聞こえる(含『少年』『誰も知らない』のネタバレ)。
寒山

**ネタバレ注意**
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誰も知らない』で羽田へ向かった柳楽優弥の、その後の変奏作と観ていいのだろう(城桧吏は柳葉によく似ている)。もうあの非情の世界を是枝は捨ててしまったのかと半ば諦めていたのだが、ここにきて復活させてくれた。そして辿り着いた先は善悪の彼岸。

本作はあらまほしいことに、『そして父になる』辺りで露骨だった、富裕=悪、貧乏=善という単純な図式を放棄している(疑似家族が主題の同作をもう一度なぞり直してもいる)。もちろん逆でもない。社会からのアジールだが/ゆえに反社会的、という樹木希林ら疑似家族の性格づけは複雑なものであり、それゆえの説得力がある。これはもう、河原者の芸能に始まり長谷川伸から森崎東に至る、人情最優先の吹き溜まりの世界。

この日本映画のお家芸であるイデアールな虚構に、本作は見事に現代的な肉付けを施してゆく。人情噺直系の柄本明の件があり、松岡茉優と聾唖者の池松壮亮の裏社会でしかありえない美しい件があり(障がい者への性的奉仕という課題に公的機関は決して手をつけられないだろう)、安藤サクラを恐喝するクリーニング屋の同僚という生々しい件がある。墓穴掘るリリー・フランキーも自首する安藤も、鼠小僧として裏街道で生き延びるための非情の掟を知っている。城桧吏はこの真空状態に耐えきれず(フランキーは鼠小僧=義賊ではなかったという幻滅)、万引きした蜜柑とともにこのアジールを崩壊させてしまう。

そして本作が素晴らしいのは「悪役」の片山萌美にもちゃんと寄り添う処だと思う。戻ってきた娘の佐々木みゆとの関係を相変わらず築けない不器用な母親(彼女も樹木希林たちの近所の安アパート住まいである)。このワンカットは重い。彼女から見たら、子供と易々と関係を築く安藤たちは理想像だろう。本編の全ては、虐待した娘が失踪した後の片山の夢想(イデアールな虚構)というニュアンスが感じられる。あんな一家に拾われたほうが娘は幸せなんじゃないのか、という母親失格者の自嘲を。ボロ屋の縁側から見えない花火を見上げる一家のとても美しいショットを、キャメラ目線で見下ろしていたのは片山のような気がしてならない。この重層化こそが本作の肝だと思う。

反社会的な生業の一家ということで『少年』と比較してみたくなるのだが、オーシマ作品で崩壊してもよいと煽られる家族がどうしようもなくずるずる生き延びるのに対して、穏健な是枝監督の本作で疑似家族のアジールは崩壊に至る。両作にかかっている物語のバイアスは正反対を向いており、『少年』の渡辺文雄の一家はむしろ片山萌美の一家に近似している。そしてどうしようもなく母との関係を再び断たれたのだろう、ラストで再びベランダにひとり佇む佐々木(扉は内側から施錠されているだろう)は、『誰も知らない』がもういちど再開されたと告げている。『少年』に劣らぬ酷薄がある。いったい、この娘を救えるのは、万引き家族しかいないのか、と映画は小さな声で悲鳴を上げている。

通り雨のなか、フランキー・安藤が始める一方、城桧吏と佐々木みゆが雨中を走って帰る。この崩壊の予感がWらされる件など、中間部として抜群の出来、日本映画の王道を継承している。脇役に至るまで名優の名演を揃えた贅沢な作品で、後半になるほど可愛くなる安藤の造形も相変わらず凄いものがあるが、さらに凄いのが樹木希林で、彼女の加齢具合はどこまで演技なのだろうかとビビらされるものがあり、この怪演が作品のレベルを天井まで引き上げている。子役の演出もいつも以上に素晴らしい。佐々木みゆの寂しさに心が痛む。

(評価:★5)

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