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[コメント] 青春を返せ(1963/日)

よく考えれば余りにもド派手な収束に向けてテンション急上昇するトンデモ映画スレスレ作なのだが、違和感がないのは生真面目な描写の真摯な積み重ねがあるからだろう。裁判とは頭を下げて回ることなんだ。
寒山

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作、実話か創作かで受け止め方がまるで違ってくる処だが、その情報は得られなかった。原作者は村田英雄の演歌の作詞もしている人らしく、多分創作だろうという見込みで書いている。もし実話ならどんでもない話である。

序盤は流し気味。尋問における刑事の無茶苦茶など、50年代の独立プロ映画で御馴染みであり、御馴染みだろうと非道いは非道いのだが映画的な興味は足りない。

盛り上がり始めるのは芦田伸介登場以降。全般に当時の路地の描写に優れたキャメラ(我孫子に行くには船に乗ったのだ)だが、芦川いづみが自殺を図る踏切のショット、彼女が薔薇園を発見して喜びの余りに倒れ込むショットがとてもいい。

そして本作で最もいいのは、清水将夫の弁護士依頼で粘り倒す件、及び自供してくれ、できないで頭を下げ合う大森義夫との対決の件だ。芦川は何も派手なことをしない。ただ方々に頭を下げて回るばかりなのだった。頭下げるのが芦川だから思わず感涙を誘うのだが、一方、我々だっていつ彼女のように陥れられるか判らない、という意味で戦慄をも覚える。

会社の部長から芦川が休職を云い渡されるときの弁「社会はモラルで回っている」が分厚い。大森に断られた後、息子を自動車事故から救って大森が改心するのは出来過ぎな展開だが、こんな偶然でもなければ長門裕之は死刑なのだと、逆側から冷酷に宣言していると取るべきだろう。

「若者よ」が二度、象徴的に歌われる。私は『日本の夜と霧』で、穏健路線に転向した共産党員が歌っている歌、という位の認識しかなかったのだが、そもそもは歌声喫茶の流行歌だそうで政治色はないらしい。身体を鍛えようがどうしようが大きなお世話であり、どういう脈絡で流行ったのだろうと今も疑問なんだが。

ともあれ長門がこれを歌い、芦川が死んじゃう山場は強引スレスレだが、長門の心情を推し量ればそんなことは云えなくなる。出獄した長門が走るラストも、彼の気持ちはよく判るものがあった。兄弟は大切にしようと思った。

(評価:★5)

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