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[コメント] 約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯(2012/日)

裁判所の伏魔殿ぶりの告発凄まじく、再審開始決定を下してすぐ退官しちゃう裁判長は立派な人だったのだろうか、いろんな断片に箆棒な余韻がある。劇映画としても山本薩夫の後裔に位置する秀作で樹木希林がやはり素晴らしい。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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弁護団の主張が簡潔に整理されてあり、主張が明白なのがいい。裁判所の抗弁に説得力がなさ過ぎる憾みは感じるが、そういう両論併記の作品でないのは当然のスタンスだろう。

そのようにして炙り出される色々なものが本作を忘れられないものにしている。墓地から追い出されて畑にぽつりと建つ死刑囚一家の墓が強烈。忘れたんだを繰り返す村の証言者や「沈黙は金なんですよ」と取材を拒否する鑑定士の教授の怪しさもまた凄い。告発ドキュメンタリーでしかお目にかかることのない表出である。

これが樹木希林のお母さんの「村の人が正直に話してくれたらいいのに」という独白に重ねられる。村を追われてひとり暮らしで、天井の鼠発生に「二人になったようで、少し気が大きくなるのです」という科白が泣かせる。仲代達矢の貧しい食事、拘置所の廊下を進む物品供給の台車などもリアル。これらは丁寧な取材の賜物のような件だろう。犯罪ものの魅力はこのようなマイナーな人たちの肉声を拾うことにある訳で、本作はこの強度を見事にフィルムに焼きつけている。

(評価:★5)

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