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[コメント] 婦系図(1934/日)

寅さんも大好き「婦系図」、マキノ版も三隅版も秀作だがこの元祖映画もとてもいい。各シークエンスで舞台のように腰を落とす芳亭演出が上等。若き田中絹代の魅力に溢れている。
寒山

**ネタバレ注意**
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この原作のいい処は志賀靖郎の先生の父権主義が覆される処にある。泉鏡花と師匠の尾崎紅葉の関係が描かれたと云われるが、それを越えて旧民法下の家父長制度の最悪の事態が記録されて深みがある。先生の保身は女たちを苦しめるような構造に社会が仕組まれているのだ。志賀の造形は迫力あり良好。彼が悪役でないという時代の認識が生々しい処で、末期の田中絹代を抱き寄せる辺りにそれが奇妙な具合に溢れている。

20代の田中絹代の魅力全開の映画だ。冒頭の蛙を私のイロと呼ぶ諧謔からはじめて、飯田蝶子との愉しい丁丁発止(当時の身分が色濃く表現される)、大塚君代を庇って短刀出しての啖呵「命懸けで男に惚れた女は、いつでも死ぬ気でいるんだ」、その他全てが素晴らしい。本来は剽軽な人物の痛々しい流転というニュアンスが優れている。病床での虚けた表情のバストショットが私的ベストショット。

科白で語られる人物を次のシークエンスで登場させるカット繋ぎが多用されるが、これは後のナルセなども活用したもの。その他、シークエンス間を新聞や姓名判断で繋いだり、喧嘩でオフフレームを活用したり、キャメラがお茶と一緒に移動したりと、演出はモダン。芳亭作品はもっと古臭いものだと思っていたので嬉しい驚き。武田春郎のグネグネした造形は奇怪で、上流家庭に取り入る仲介者にはああいう人物はいるものなのだろう。

各シークエンスが長いのは舞台からの流用があるのだろう。これらはどれも充実していて今やかえって新鮮である。岡譲二が絹代に別れを切り出す夜の屋外の19分もあり、フレーム外から聞こえてくるかのように三味線で謡が入るのがいい。すぐに別れかと怖れた絹代が「今夜は帰れるのか」と喜ぶのが痛々しい。一方、繋ぎの説明が不足ぎみなのはなぜだろう。岡譲二の元ヤクザの述懐や小林十九二の改心など唐突である。残存するのは総集編的な編集後のフィルムなのか、それとも舞台に慣れた当時の観客は拘らなかったのか。

(評価:★4)

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