記憶違い、何が嘘か誠か、包帯のような嘘（中島みゆき）みたいな主題をこの監督は撮りすぎた。『歩いても歩いても』から『三度目の殺人』まで色々に撮ったものだが本作にはもう新味がない。ただ国を変えての焼き直しで、屋上屋を重ねるという感想しか沸かない。老優ふたりは清濁併せ飲むのだと微笑みあって終わるのだがいつものこと。固有の主題への拘りは本来麗しいことなのだが、これでは進歩というか変化がないと思う。

動物の話題満載の作品だがドヌーブはヒキガエルに似ている。元美人女優が老優でも優れているとは限らぬ訳で、彼女は老優としては大した人ではないと思う。劇中劇は（年取らない若手俳優をお母さんと呼ぶ）彼女の若返りへの執念のように見えるのも外しているのではないか。山田風太郎は年取った美人女優に会うのを厭だと書いていたが、本当だと思う。あと、クライマックスの彼女の名演技、周囲が感動しているという感想で示されるのだが、あそこはその名演技を撮らないといけないだろう。ここを略すものだから映画か軽量級になった。まあ軽量級を目指したんだろうけど。

『ワンダフルライフ』も『空気人形』も『奇跡』も撮っているのだからSF趣味は唐突ではない。そんなことよりひどいのは音楽で、陽気な場面ではストリングスがキュキュ、気づきの場面ではピアノがポロン、みたいな通俗連発で厭になった。鑑賞は特別版。