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[コメント] 銀心中(1956/日)

雪の花巻鉄道の夢のような美しさ。廃線だそうで残念だ。本作は善人しか出てこないからメロドラマではなく、怪談に近い。戦争批判なのだが同時に一夫一妻制までも批判している処がある。乙羽信子の号泣は珍しく、これだけでも貴重だ。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







夫と従弟が召集され、夫の戦死の内報があり、従弟と再婚したら夫が復員してきた、という話。従弟の長門裕之は夫の宇野重吉を慮って家出するが、乙羽は長門を追いかけ続ける。 ふたりが睦まじくバラックの散髪屋で働いているところに宇野が復員してきて、三人が同時に間違った空気を読んで狼狽える瞬間のショットが忘れ難い。乙羽は散髪屋の廃墟に「阿佐ヶ谷駅北一丁目」の看板を立てる。みんな路上生活という断片も心に残る。

「女って嘘のつけないものなのよ」という乙羽の、砂浜で長門にすがりながら云う科白があった。女一般はそんなこと全然ないだろうが、乙羽の女心ということならよく判る気がする。宇野には気の毒だが長門が好きで仕方がなくて、どこまでもついていく。これがそのまま戦争批判になっている。「私もう家を出てきたんだから」「帰っておくれ」の連続。

「しろがね」は最後の舞台の宿屋の名前。大沢温泉(岩手花巻)。花巻電鉄含めた雪の描写がとてもいい。夜に深々と降り、横殴りに降り、翌日の晴天に積雪。電車をワンショットだけ出ブレ効果を潜ませたショットまである。私的ベストは乙羽が東京へ帰ると電車に乗るショットがあり、続いて彼女が宿屋に現れて何故だと思わせて長門に一言「帰れないの」。波状攻撃であり怪談に近くなる。ダム工事の爆発音が遠くから聞こえるのがまた時代だ。長門はそこで働いているのだと云う。

(評価:★5)

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