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[コメント] 若者よなぜ泣くか(1930/日)

冒頭だけ表現主義でやたら面白い。元祖『雪の断章』か。以降はフツーのメロドラマで、佐藤紅緑の闇雲な正義感と上昇志向とブルジョア賛美が長尺3時間にわたりダラダラと説かれ続ける。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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冒頭、ラグビーのユニフォーム着た大勢の選手が、背丈より高い球転がしの球を奪い合っている。高校対抗の押球(プッシングボール)戦とあるが、法螺なんだろう(それともこんなゲームが本当にあったのだろうか)。これに結婚式がクロスカットされる。冒頭、岡田ともうひとりが京都を去る辺りの話法はゴチャゴチャしていて判り難い。京都駅の光景など貴重なんだろう。

そして後はブルジョアと貧乏の往還のメロドラマ。総じて平凡だが、娘を売り飛ばす河村黎吉の酔っ払い具合や、「発狂」して林のなかで横座りに穴掘っている川崎弘子は奇怪でいい。表現主義の影響なんだろう。発狂を知って「ぼくに下さい」と結婚を迫る鈴木伝明は立派過ぎて驚いてしまうし、その他終盤になるにつれて駆け足になる作劇はとても上手いとは云えない。ラストは全員ブルジョアに戻りみんないつの間にか和解して、川崎は一瞬で精神病が治り、元政治家の父が静養する湖畔の別荘と湖のボートで目線の交換。ブルジョアと下層との往還は松竹的な主題だが、ここまでのブルジョア賛美は珍しかろう。

一方、ブルジョア的頽廃は指弾され続けており、長女の筑波雪子の本棚に「変態性欲」云々という本が立っている(ジャズの本もある)のを見て鈴木は顔をしかめるのだった。新聞社では飯田蝶子の悪目立ちしている婦人記者は揶揄の描写なんだろう。「危険思想」というフレーズも飛び交うが扱いは保守的。賄賂にたかる記者たちとか、「埋立てをするかどうか聞き出すだけで百万円」とか、広告優先の新聞社とか、紅緑的な義憤を呼び起こす題材は山ほどあり、沸騰する薬缶がサイレント印。しかし、この時代の資本主義的行き過ぎを糺した白黒明白な批判は軍部思想に行きついたのを忘れる訳にはいけない。世の中こんな単純ではなかったんだろうという感想が出てくる。

岡田時彦の丸い黒サングラスの格好良さは特筆もの。鈴木伝明は更生した佐藤允を想起させ、伝説の田中絹代とのコンビはここでは兄妹だから大したことがない。小林十九二のへばりつくような目線が一番印象に残ったりする。「進メ」「止レ」と表示の出る信号機がレトロで素敵だった。

(評価:★3)

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